midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

『「その日暮らし」の人類学』を読む。

 

 この記事で知って気になった文化人類学者の小川さやか氏の著書。

cakes.mu面白かった。自分と違う価値観で生きてる人の言葉を聞いて価値観を拡張される感じの読書をここ最近たくさんしていて、そのうちの一冊。タイトル通り、将来のために今を犠牲にしながら働くことを是とする資本主義的な生き方と別に、主にインフォーマルな形で「今を生きる」生き方をするアフリカや中国の人々を例に挙げて、それが極めて資本主義的で合理的な選択に成り立っていることを解説していく本。今自分には子供だったり自分の考え方や価値観を伝える人が特にいない状況だが、インフォーマルな生き方を推奨はしないまでもこういった価値観を感じられる環境に身を置かせてあげるのは良いことなんじゃないかなーと思ったりした。要は家庭でももったらアフリカ移住してもいいんじゃね?というか。

冒頭からしてピダハンの話が出てきて驚いた。自分としてもすごく興奮した読書経験だったピダハン的な時間感覚を取り上げて私たちの感覚との違いを説明する。

 

timit.hatenablog.com後は著者が実際に生活しながら調査していたタンザニアの夫婦や中国のチョンキンマンションを例に挙げてこんな特徴を抜き出している。

・ジェネラリスト的な生き方と生計多様化。

計画的に資金を溜めたり、知識や技能を累積的に高めていく姿勢そのものが不合理で危険であるという環境。

・仕事は仕事という価値観。

あらゆる職種の仕事を通じて社会関係を構築し、何度も失敗しながらその時々の運にまかせてより旨く生きそうなことにチャレンジする環境。

・共同事業になりにくく、個人ごとに仕事をする傾向が強い。

事業規模が大きくなると「試しにやってみる」ことが難しくなる。ばらばらに動けば、誰かが成功したり、警察の摘発があっても散りじりに逃げれる可能性がある。

・インフォーマル経済において、契約の概念はほとんど意味がない。

契約不履行だとしても訴えることが出来ないので、個々人の信頼関係がビジネスをやる上で凄く重要になる。この辺は「ヤバい経済学」でも同じようなフレーズあったなと思う。隙があると容易にカモられるので、対面でのビジネスが重視され、その際に言葉が通じなくてもジェスチャーで仕事をしている例も多い。信頼の概念も取引前になんとなくあるものではなく、騙しの実践知も含めて「うまくやる」ことが出来る相手かというのが判断基準になる。

新自由主義的な価値観

チョンキンマンションでは様々な人種や出自や性別による差別が少なく、自由で稼いだもの勝ちという新自由主義的なルールがある。ただ、フォーマル経済と違い、成功しても他者を買収したり囲い込もうとせず、個々が小さいままアナーキーな状態で仕事をする要素が強い。

 ・コピー商品の経済

中国のコピー商品はアフリカで多数輸入されており、オリジナルと比べて粗悪なことも知られているが、消費者としてはそれを織り込んで安いモノや一時的に楽しむためのモノとして消費されている例が多い。

・倫理観の違い

コピー商品を扱うアフリカ人と中国人の間の意識の違いが取り上げれている。アフリカ人は「金持ちな観光客」をターゲットに高嶺で販売し、貧者には必要以上の押し売りをせず「共生」することを倫理とする例が多いが、中国人は生産者と販売者が違い双方の顔を見て商売をしていないので粗悪な商品を情け容赦なく売ってしまうので反感を買っている。

・借金に対する感覚

個人間で小口の借金をする文化が強く、借金が返せなくても「今返せない」だけであり、いずれ返すつもりであるという考えがある。