midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「彷徨える河」を観る。

前情報もほとんどないまま、「アンダルシアの犬」みたいだ的なレビューを参考にして観てみた。物語としては、実在した2人の研究者・探検家の手記を基に、アマゾンの奥地に住む孤独な男カラマカテというシャーマンを軸にして、彼の青年期と壮年期の2つの時間軸を織り交ぜながら、聖なる植物ヤクルナを追うリバー・ムービー。やはりどうしても個人的には昨年読んだ「ピダハン」を意識する場面が多く、同一の個人でも年齢によってアイデンティティ的には生まれ変わるという「チュジャチェキ」という概念も「あ、こういうことか!」みたいな納得感と共に観ることが出来た。

 

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安易な西洋文明批判・未開文明礼賛でもなく、大げさに言えば「世界の中で人間は規律を身につけどのように生きることができるか」みたいな問いの部分的な回答のような内容になっている。「回答」という言葉は適切でないかも知れないが、本作の登場人物たちは皆真摯に生きていて、それだけで胸を打たれる。

 

研究者のテオやエヴァンは共に研究に情熱を持っておりアマゾンの人々に敬意はもっているけども多少不作法だし、カラマカテはそんな彼らを敵視しながらもきちんと対話し自分のルーツや知恵・知識を疑わない姿がひたすらカッコいい。ていうか、彼の出で立ち、所作のそれぞれが有無を言わせない説得力を持っており、役者(実際のアマゾン出身者らしい)のパワーが半端じゃない。旅の案内人マンドゥカは研究者の価値も資本主義の意味もアマゾンで生きる術も知っており、懸命に両者を中立ちする姿に涙チョチョ切れそうになること受けあい。

 

彼らの道中の会話がどれも示唆に富んで面白いのだ。例えば、写真に撮ったカラマカテの像の所有者はテオなのか?カラマカテなのか?みないな話が出てくるんだけど、考え直してみると確かに、という感じ。愛する嫁に手紙を送るテオに爆笑するカラマカテも可愛い。

 

決して整合性や辻褄合わせで綺麗に構成された物語ではないし、観終わった後も良くわからないシーンも多く、ゴツゴツした違和感が残るのだが、余韻は半端ない。グロテスクで醜悪なカルト教団みたいな集団と道中で交流するシーンもあるし、なかなかどぎついんだけどずっと緊張感もって映画に没頭出来た。

 

映像的に言うと、ラストを除いて全編モノクロなんだが、密度高く情報量の多いジャングルの出来事の数々に息を飲む。ターセム・シンのような構図や光量はかなり計算された絵作り。特に、ヤクルナを摂取するシーンが圧巻。完全なトリップ映像で、テレンス・マリック「ボヤージュ・オブ・タイム」級。


『ボヤージュ・オブ・タイム』本予告

 こういう「揺さぶられる」映画にはそうそう逢えるものじゃない。