midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

 「農ガール、農ライフ」を読む。

農ガール、農ライフ

農ガール、農ライフ

 

 好きで聴いてるポッドキャスト「ノウカノタネ」で紹介されていたので読んでみた本。


有機・無農薬菜園チャレンジ【福岡だーちゃ①】オープニング

すごく面白かった。紹介されていた通り、農業だけにとどまらず、現代日本における様々な価値観の女性の生き方を描き出した一冊。読んだ後、数日くらい絶望してしまうくらい自分がのほほんと生きてる中でも身近で辛い思いをしている女性がたくさんいるのだなと痛感してしまう。自分が男性として生活していて気にすることもない感覚で、女性として生きるということは男性と比べて自分の意志で好きなように人生を選択して生きることのハードルが全然違うのだと。

物語開始時点で主人公は東京の大学を卒業してから働き続ける30代のほぼ同年代でかつ未婚の女性、経歴的には自分も近いが、かなり経済状況に差がついてしまっている。それは努力の差とは言えない、家族の問題だったり、就職した会社の事情だったり。その後描かれることになる彼女の真面目で建設的な性格は自分でも相当共感できるのだが、トラブルが2つ以上重なる(恋人との破局、派遣切り)と生活がままならなくなってしまう程ひっ迫している。住む家がなくなると就職活動も出来ない、一度派遣社員になると正社員採用が困難、親を早く無くしてしまったことで保証人がおらず家を借りたり農業が出来る環境が作りにくい、など社会のバグのようなものに何度もハマってしまい、その度にくじけそうになる。彼女は大学を卒業するまで、公正な社会が目の前に広がっていて努力すれば道が切り開けると思っていた、と述懐するのだが、自分は未だにある程度その神話を信じてしまっている気がして冷や水をかけられた気になった。

本作に出てくる人々は、主人公をはじめとして皆長所も短所もバランス良く描かれるのもポイントが高い。皆がそれぞれに影響を与えつつ、生きる場所を探してもがきながら生きている。日本の農業社会が抱える問題点も抉り出していて、生まれ持った性別や家柄などの属性だけで生きてる感がすごかった。合理性を重視せず、権威主義年功序列で男尊女卑で閉鎖的で排他的な雰囲気が凄く気色悪いなと思ってしまった。農家では自分の意志で家も建てられないこともあるらしい。時給にしたら100円程度にしかならないほどの重労働。大根1本1000円くらいで売れないと生活がなりたたないのだそうだ。

そしてやはり気になったのがつるちゃんが指摘していた通り、本作は結婚や恋愛の要素も大きいのに「性」の匂いを感じなかった点。別に無理して色気要素を入れる必要はないと思うが、主人公はじめとして出会う人達に性の要素の描写があるとより人間臭いというか物語に躍動感も出たんじゃないかなぁと思ったりもした。