midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

 「脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか」を読む。

 面白かった。ハラリは「サピエンス全史」で主に1万年前のサピエンスの歴史を語ったの対して、本書はもっと大きな視野で、地球が生まれて数億年後から始まる、40億年の「生物史」という感じ。

timit.hatenablog.com語りは最初になぜホモ・サピエンスはこのような運動・移動能力を持つのかという話から始まり、徐々に歴史をさかのぼっていくような構成となっているのだが、この序盤は「星を継ぐもの」で月にホモサピエンスの化石が見つかった時の戸惑いを軸にした物語を思い出した。「今の我々が当然とみなしているこの身体は、バタフライエフェクトのように進化の過程の偶然が重なって出来ただけにすぎないはず」という考えに基づくものだ。

timit.hatenablog.com

重力ある地球上でASIMOのような直立2足歩行のロボットを人間が再現するのがとても困難なように、人間が体重移動しながら2本脚で歩いたり走ったりスキップしたり、さらに手で物をつかんだり投げたりできるのはなぜか?そして体が左右対称なのはなぜか(動物の99%が左右対称らしい)?五感というセンサーを通じて世界を認識し、神経を通して身体に作用し運動する仕組みはどのように出来たのか?といった素朴な疑問が詳細に語られていく。割と軽妙な語り口で冗談みたいなエピソードも挟まれるし、逆に章ごとの頭では文芸作品や聖書などの引用から始まる知的さもあって読むのが楽しい。面白くてメモった以下のフレーズ。

・人間は生物界の中だとどちらかというと長距離走より短距離走の方が得意

・サピエンスは木登りの得意だったチンパンジーボノボアウストラロピテクス(ルーシー)近隣種の競争に負けて仕方なく地上に降りたことで身体を変えていった

・霊長類に近いヒヨケザルはグライダー飛行が上手だが、サピエンスは飛行能力を持たなかった

・恐竜が木登りして鳥になった可能性

アリストテレスの考案した生物分類の体系は今でも有効なほど確かなものだった

・骨や脊椎を持たない生物の動き方とか、魚が水を泳ぐのと鳥が空を飛ぶのは同じように揚力を使っているとか(マグロは爆発的な運動量を最小限のエネルギーを使って後流に送る達人らしい)

・マモンツキテンジクザメという、「水中を歩くのが移動手段」であるサメ

・ジョフロワというナポレオン時代の生物学者が唱えた「相同性」という概念

・神経も筋肉もないカイメンのくしゃみ、祖先は移動能力を持っていたのに、なぜ植物たちが移動手段を捨てて他の生物の力を借りて繁殖するように進化したか

・木は大気中の二酸化炭素を吸収したことで地球の低温化と氷河期をもたらした

・レーウェンフックが見出した、旅をせずに未知の世界に触れることのできる、人間の知覚を拡張する顕微鏡を使って旅に出る方法

単細胞生物にとっての移動とは、世界を認識するための手段でもある

・べん毛とインテリジェントデザインの論争

・タイワンアリタケとゾンビ