midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

 「もしも宇宙に行くのなら」を読む。

もしも宇宙に行くのなら――人間の未来のための思考実験

もしも宇宙に行くのなら――人間の未来のための思考実験

 

 タイトルそのまま、人類が宇宙に進出する際の問題や課題に対して思考実験を行い、解決の糸口を提示する内容となっている。全体的にSF的な発想や考えを効果的に使って紹介しており、楽しめた。

・「なぜ宇宙に行くのか?」→外界を認識する理性を獲得した以上、人間にはそれを使って自らと世界の最高の可能性を実現する使命がある、というロシア・コスミズムの思想を紹介。「地球は人類のゆりかごだ。だが、ゆりかごに永遠に留まることはできない」という言葉も。単純に地球資源が枯渇してしまうという消極的な理由でなく、理性を活かすために宇宙に出ていくべきだという考え方。

・マーズワンという火星移住・片道切符のプロジェクトがある。今のところ2030年目途で出発予定。それまでに火星に資材を送って生活環境を整える。男女50人ずつの100名、日本人も1名含まれる。

・意外と移住メンバーは同性だけ、の方がうまくいくのかもしれないという仮説。男女メンバーで模擬的な閉鎖環境ミッションを実施したところ、男女差別や性的嫌がらせが発生してしまったという。

・サイボーグの発想は人類の宇宙進出のために考えられた。テラフォーミングするよりも人体を宇宙(重力差のある環境や宇宙放射線に耐える)に合わせる方が良いのではという考え方。心臓のペースメーカーのように一部を機械化する方法や、細胞レベルで生物として改変させるという方法も考えられる。DNAの構造が解き明かされた20世紀から生命科学の発展は著しく、倫理的な課題は解決されていないが遺伝子を書き換えることも可能となっている。人間は食べ物を取り入れないと生きていけない従属栄養生物であるが、植物のように独立栄養生物になる必要があるかもしれない(トランスヒューマニズム)。この考え方はそのまま人体の特定機能の強化・エンハンスメントやデザイナー・ベイビーの是非に繋がる。行き先まで数十年以上かかるような距離の場合、冬眠させたり寿命を延ばす方法も検討しなければならない。それらの議論の前提として、機能強化や遺伝子治療は人体実験に関する倫理を先に解決する必要もある。例えば、宇宙に行くような高リスクの人は自己責任で強化しても良いのではないか、など高リスクなミッションを行う軍人に対する実験とも隣接する。「誰かに損害を与えなければ自由」という理屈だと、クローン人間の生産は止めることが出来ず倫理的な課題もある。

・そもそも、人間じゃなくロボットに宇宙に進出してもらう考え方もある。西洋的な考えでは「フランケンシュタイン・コンプレックス」と言って人間に模した人造物に歴史的な忌避感があるが、割かし日本や東洋ではロボットを作ることに対して楽観的である傾向がある。だが、人間のような細かな船外作業を実施できるロボットはもはや道具ではなく、法的にも人格を認める必要があるのではないかという議論が出てくる。現実にもロボットの自律性が高まってきており、その制作者だけが全ての責任を負うのではなくロボット自身に責任を負わせる提案がなされている。歴史的にも、法的には動物は人間の所有物という位置づけであったが、生物として、権利の客体でなく主体として扱うための法整備が進んでいる。人間だって、西洋白人男性だけの人権が女性やマイノリティや子供に及ぶまでずいぶん時間がかかったのだ。

・人間の知性と動物との違いとして「一回限りの生」であることを認識しているかというのが著者の主張。自分が生まれる前も死んだ後も世界が続いている、という認識を持っているか否かという分け方。確かに、と思った。

・さらに、人間を肉体から解放して意識だけ、電子上のデータとして扱うことが出来るようになれば宇宙進出の究極の姿かもしれないという議論。

・日本政府はUFO対策をしていない。エイリアンが地球に降り立ったとしても対応していないという閣議決定がなされている。日米安保の観点から、アメリカが宇宙人と戦争になったとした時に日本も参戦するのかは何も決まっていないらしい。

・ドレイクの公式という、人類以外の知的生物がいる確率を計算する公式がある。

・宇宙での活動や国際宇宙法で今のところ定められた範囲での活動となる。宇宙がどこまで人類のものかという領有範囲については、「どの国のものでもない」という決まりがあるが、言い方を変えると全て人類のもの、と言っているようでもある。月はアメリカが初めて到達しているが、アメリカのものでもない。さらに言えば、エイリアンが火星に入植してきた時には太陽系の先住民として人類の国際法に則って新たな条約を結ぶための議論をする可能性はある。

・意外と人間は海中に進出する方が先かもしれないという議論。海中都市もないし、海中で生きれるように人間を改変していく可能性もある。クジラやイルカなど、海から一度出て再び海に戻った海中哺乳類だっているのだ。