midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

 「反穀物の人類史」を読む。

 面白かった。ざっくり言うと人類史って狩猟採集民だった人々が定住化して穀物を作って国家を作ることで文明が発展していった、というような何となく共有されてるストーリーがかなり誤ってるというもの。栄養学的にも経済的にも狩猟採集民の方が体も大きく健康で、逆に農耕民たちは偏った栄養のため体が小さく、天候や災害で簡単に農作物が取れなくなってしまうという状況だったらしい。労働時間も狩猟採集民の方が明らかに少なく、余暇の時間を持てたのに対して農耕民は長時間のルーティンワークに追われていたとのこと。さらに苦労して作った作物も外部の人間たちの略奪に遭いやすく、ベルベル人のことわざとして「略奪こそわれわれの耕作」という考え方もあったらしい。疫学的にも様々な場所を移動することでリスクテイクしていた狩猟採集民と比較すると都市に定住した農耕民は疫病を蔓延させやすく、媒介となる蚊や動物たちも一か所に集まるため被害が甚大になりやすく、文字や記録に残っていない忽然と捨てられた都市の原因はかなりの割合で疫病の可能性が疑われるとのこと。ただ、疫病の証拠は痕跡が栄養不良と違って骨に残らないため、考古学的には「最も声の大きい」沈黙とみなされているらしい。国家という単位で観ても紀元前数千年は国家は興っては滅び、離散しては集合するというような状態だった可能性が高く、人や奴隷の流入も激しく政権基盤はとても脆弱だったとのこと。万里の長城をはじめとする城壁は外部からの攻撃に耐えるためだけでなく、国家が臣民を外に出さないという両側面の機能を持っていた。灌漑などの事業は国家が主導してやっていたが、国家が誕生する前から行われていたらしく、税を取って無産市民を食わせるという国家という仕組みは定着するのにかなり時間がかかったらしい。よって、ロックやホッブズが提唱した社会契約論的な国家の起源はかなり怪しく、ほとんどが国家側から強制される事業として成り立っていたし、ヴェーバー的な国家要件も満たせていなかった。農耕自体が国家が集中管理したり課税しやすい体裁だからこそ臣民に強制したという側面が強い。ひよこ豆国家やタロイモ国家が出現せず、コムギやオオムギが主食として定着したのも原因がそれである可能性があり、穀物によっては小麦やオオムギよりもカロリー効率の良い穀物を実際に栽培していた記録もあるのだという。農耕民の作った国家の残した記録として狩猟採集民は野蛮人だという語られ方をすることが多いが、実は狩猟自体は極めて計画的な事業で、仲間たちとの共同作業による狩りと、獲物を加工、保管するための道具や技術の洗練があって初めて成り立つ生き方であるため、誤解が大きいのだという。

人間は火を使うようになって消化出来るものが格段に増え、チンパンジーよりもはるかに効率的な栄養分の抽出が出来るようになった。