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有島武郎 地人論 の最果てへ」を読む。

有島武郎――地人論の最果てへ (岩波新書)

有島武郎――地人論の最果てへ (岩波新書)

  • 作者:荒木 優太
  • 発売日: 2020/09/19
  • メディア: 新書
 

 面白かった。「在野研究者」が面白かった荒木優太氏の最新作で、専門分野でもある文学論。高校の頃に有島文学に触れてそのまま研究者になろうと思ったという位だからこそ、彼の書いたテキストだけでなく彼について書かれたテキストについてもかなり網羅的に読んでるんじゃないかという位深く読み分析した、一朝一夕では書けない濃厚な分析となっている。新書じゃなくて分厚い一冊で出しても良い位だ。

個人的に有島武郎は昔「小さき者へ生れ出づる悩み」を読んだ記憶はあるがほとんど内容を覚えていない、という状態だった。本書を読んで、作家よりも評論家・思想家としての彼の文章の方が面白そうだなというのが率直な感想。明治時代にアメリカやヨーロッパに留学して当時の西洋文化や学問・思想を学び、それを自身の日本人としてのルーツとも混ぜ合わせて生きることと芸術を為す・鑑賞することの地理性や国家と自己の規定について考え続けた人なんだなというのを知った。冒頭でベンヤミンアウラ概念と合わせて論じているけど、本質ってなに?というのを問い続けていた。その補助線として、キリスト教に近づき農学、地理学を学び社会主義に共感していた思考の足跡をたどり、結果として本書は現代人にも通じるアイデンティティについて考える参考書にもなっている。

コスモポリタンという意識は地に足のつかない空想的な考えなのか?世界中の地域料理を食べ、英語の文章を読んで英語の映画を見ている自分はどの程度日本人なのか?今現在の自分も同じように考えることはある。

あと、芸術とは個性の発露であると考えて自作を載せる雑誌を刊行していた、とかいうエピソードもSNS全盛の現代に通じるなぁと感心したりした。