midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「当確師」を読む。

前に読んだ真山作品に職人的な仕事ぶりを感じたので、続いて読んでみた。正直、物足りない出来。架空の地方政令都市の選挙を題材に、口が悪いが超一流の選挙コンサルが、盤石の政治体制を築き上げて次の選挙も当選確実と目される市長の再選を阻止してほしいという依頼を受けて対立候補を担ぎ上げて、実際に選挙に打ち勝つというお話。架空の都市が舞台だがところどころ時事ネタが扱われており、今読むとより楽しめるかもしれない。

物足りない理由としては、選挙自体の調査が浅く見えたことと、キャラの書き方に変な固定概念みたいなのがにじみ出てるように感じられたこと。同じく選挙を扱った作品なら、表現形式は異なるがかわぐちかいじのマンガ「イーグル」の方がよりリアリティがあって面白かったように思う。本作の方がどちらかというとマンガ的というかチープというか、民放の二時間ドラマを小説にしましたみたいな感じが強い。例えば、主人公の選挙コンサルはロングヘアにタバコばっか吸って口の悪いけど仕事ができる男、っていうブラックジャック的な要素が強く、敵役の市長も表では市民の声を聴き市民のための政策を実行しているように印象付けながら、「働かざる者くうべからず」という自身の思想に基づいて弱者を特定の地域に囲い込んで自由を奪い、金持ちには海外からの経済特区のような地域の造設を目指して受け入れていくという「典型的な」悪い政治家みたいな役どころだし、わかりやすいけどカリカチュアしすぎでつまらなく感じた。主人公の選挙参謀たちもおっちょこちょいな運転手と政治に強い切れ者の男とコンピュータに強いパンクファッションの娘というとてもビジュアル化しやすそうな面子。ほんとにアテ書きしたんじゃないかと思うほど露骨な感じがして読んでてげんなりした。特にパンク娘の描写がひどく、「パンク」も「コンピュータ」もろくに知らない人間が描いてる感じがありありと出ててうすら寒くなる。もっと緻密な取材してれば自然な人間を描けたのに…と思うほど。

そして肝心の主人公にしても、積極的に仕事してる感じが薄く、大胆な作戦の実行やら擁立した候補のコーディネートが物語のうねりとなるような描写になっていないのが悲しい。

良かった点を挙げるとすると、擁立した候補者が聾唖者で、耳が聞こえず手話で演説するという設定を効果的に使っていたこと。アメリカ式手話と日本手話を織り交ぜて、健常者に伝わらないメッセージを特定の人にだけ伝える、とか。こういう設定をもっと生かせばもっと面白くできたような気もするんだけどな。