midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

ミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」を読む。

不思議な読み応えの本だった。著者が住むアメリカのLAに住む、ネット全盛の現代にフリーペーパーに色んな物の売買広告を出している様々な人を訪ねてインタビューを重ねたフォト・ドキュメンタリー。去年読んだ、「断片的なものの社会学」に少し印象は近いかもしれない。それでいて、アイデアに煮詰まって右往左往する著者の映画の製作記でもあるという。

本書に出てくる人たちの一掴みに語れない生々しさが面白い。そして、彼らに対して時に嫌悪や恐怖を抱きながらも向き合って言葉に残そうとする著者の生真面目さがまた面白い。過去の作品にみられるように、相変わらず脅迫神経的というか近視眼的というか、文章の取捨選択、リズム、フォーカスの当て方が変。過去に犯罪を犯して足にGPSを取り付けられた男だったり、オタマジャクシを育てて池を作る特殊学級に通う男子高校生だったり、見ず知らずの金持ちの旅行アルバムを集めるギリシャ移民の女だったり、著者の言う通り、車社会のLAでは普段の生活でなかなか遭遇しない色んな人間が登場してきて、朴訥とした語りを拾っていく。そしてついには彼らの一人に自作の映画に出演してもらうまでになり、映画は完成したものの少し悲しいラストで締めくくる。フォトの効果はやはり強くて、薄暗い室内での彼らの表情や売りに出している奇妙なものなどを文章だけでなく視覚でダイレクトに伝えられると、人の人生をこっそり覗き見しているような気分になる。特にためになる要素はまるでないんだけど、なんか面白い作品。