midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

草枕」を読む。

草枕

草枕

久しぶりに夏目漱石。とても厭世的な気分の時に読み始めたので、「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」という有名な出だしや明治後期の熊本の温泉街を桃源郷のような風景描写が染み入る。そしてヒロインの那美さんに萌える。

ストーリーはのたりくらりとしており、主人公は作中で特別な行動を起こしたりせず、出来事の傍観者という立場である。だから、筋を読むというよりも西洋と東洋の美術に触れてきた当時の芸術家の芸術論や、浮世に拘泥せず、観察者として生きるという「非人情」の世界観を楽しむ物語として読んだ方が面白い。地味だけど、「普通に飲めばいいのに妙に形式・儀式ばってばかりの俗人が楽しむ文化」として茶道をディスってる主人公が面白かった。

文庫版で読んだんだけど解説も秀逸で、当時の漱石自身の胸中と主人公を照らし合わせて「東京のような人づきあいの煩わしい浮世から逃れて、絵描きのような非人情の世界に生きたいと願いつつも、結局は場末の温泉街で周囲にキチガイと噂されながらも懸命に生きる美女と出合うことで「人情」の世界に足を踏み入れてしまっている姿を描くことを通して、決して「非人情」の生き方は出来ないということに達観した心境でこの作品は書かれている」と分析しており、なるほど多分そうなんだろうなーと感心できる部分が多かった。

旧仮名遣いや現代では通じないような難しい熟語が多いので読み易いとは言い難いけど、物語自体はそこまで長くないし、また読んでみてもいいかなーと思った。意外と今まで読んだ漱石作品の中でもベストかも。