midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「水族館飼育員のキッカイな日常」を読む。

基本的には緩めで笑えるコミックエッセイなのだが、なかなか一般人には実態がつかめづらい水族館の日常を描いていて面白かった。普通にお金を払って観覧に行くだけの客と違い、生き物たちの飼育員でもあり研究員でもありイベント企画屋でもありイルカショーなどのパフォーマーでもあるという彼らの生態も水族館の生き物たちと同じくらい多種多様で面白い。

いわゆる動物たちの世話では、個体ごとに性格も全然違って特定の飼育員からじゃないと餌を食べないとか、水族館マニアは個体ごとの名前を覚えていて識別できてるみたいな話は当然といえば当然だが、彼らにとってはtechnoとhouseの音楽とか区別できないだろうし興味もないだろうなと思うので共感できたりする。著者自身も基本は美大出身のアーティストなのだが、色んな個性的な人が同僚に多くて大変だろうけど魅力的な職場だなぁと思う。職種ごとの大まかなキャラ紹介なども自分の職場の人に置き換えるとあの人かな?と想像できたり。

普段全く見れない水族館の裏側のエピソードは本当に興味深くて、企画展の前は通常業務をやりつつ色んな外注業社へのやりとりでヘトヘトになって館内で夜を明かしたりとか、色んな生物の遺体や餌が保管された魔窟のような冷凍庫とか、他の水族館から異動する動物たちの搬入・搬出だったり、海水を水槽に取り入れるための大規模な神殿のような設備などは一生見れない気もするし、社会科見学的に見てみたいなと思ったりした。

こういう仕事の現場の解像度が上がると、自分が働いているITの現場はまだマシだと思えたりする。今はITの経済規模だったり労働市場の価値が上昇しているのでそれなりに余裕を持って暮らせているが、おそらく本書に紹介される同僚たちも、今の自分と同じように仕事が面白くて、生き物たちに対する愛着や興味をエネルギーに働いているのだなというのが伝わるのに、経済的には大変そうに見えるのだ。休日も釣りやキャンプなど生物たちへの興味を軸にアウトドアな生活をする人は、休日もOSS活動したりコミュニティ運営してる人たちに近いパッションを感じる。

専門性の高さやスキル、パッションが高くても経済的に潤わない人たちが、上前を掠め取るだけとか実態の薄い管理業務をやるだけのブルシットジョブ的な仕事をする人よりも潤う社会になればいいのにとは本当に思う。