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webエンジニアのメモ

「マスタリング・エンジニアが教える音楽の聴き方と作り方」を読む。

マスタリング・エンジニアが教える 音楽の聴き方と作り方 (CD-EXTRA付き)

マスタリング・エンジニアが教える 音楽の聴き方と作り方 (CD-EXTRA付き)

エポックメイキングな一冊だった。音楽の聴き方が変わる一冊。著者は主に国内の生音バンドを担当する現役のマスタリング・エンジニアであり、国内では初の「オレンジ」というマスタリングスタジオを設立するパイオニアでもある。付属のCDではマスタリング前の音源とマスタリングのバージョン違いで曲が収録されており、聴き比べてみると確かに面白い。著者はアーティスト的な感覚と初学者にも優しい言葉を兼ね揃えており、「耳の悪い」リスナーを置いてきぼりにしないのが優しい。それでいて本書で語られる用語は容赦なく、基本的にはマスタリングを実際に行う人間を前提にして書かれている。少なくとも音響に興味のある人間でないと著者が何を言わんとしてるかが分からないんじゃないかと思う。例えば、仕事で受注したクラシックのマスタリングをする上で、著者の仕事の工程をそのままダイレクトに文章に起こしているのだが、それが面白い。「ステージの床がしっかりと見えて、すごく新鮮!」というフレーズがあるのだが、普段のバンドやポップスの録音では各パートが別々に録音されていることがあり、各楽器に共通な低音域が無いけれど、オーケストラでは全楽器が同じ場所で録音されているので「同じ床」で鳴っているため、音場に再現されたそれが分かったのだという。すいみせん、私は耳が貧弱でその違いがわかりませんでした…。という感じ。

とりあえず、著者のお言葉でもある「何がどこで鳴っているのかが分かる環境を自分で整えること」「それに対応できる、解像度の良い耳を作ること」「いろいろな音楽を楽しくたくさん聴くこと(特に生楽器)。「○○みたいにしたい」と要望があった時、それに対応しなければならないから」については、音楽を趣味とする以上鋭敏な感覚を常に持ち合わせていたいなーとは思う。実際、本書を読んで、マスタリング次第で聞こえ方が変わる、というのは少なくとも把握できたので、より音場の広い、かっこいい音を聞きたいなーと思う。

ただ、著者も気にしていたけど、彼らの仕事ぶりに気づく人って、音楽好きの何パーセントなんだろう…、とは思う。俺も大分鈍い方であるけど。