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田中森一の「反転」を読む。

反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)

反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)

年始、実家で読了。面白かった。石原俊介のルポ読んで知った、「闇社会の守護神」の自伝。バブル紳士を初めとして、貧農から叩き上げの検事として「撚糸工連事件」「平和相互銀行事件」などの事件を担当し、のし上がってきた著者が直接対峙してきた数々の曲者(金融ゴロとかそういうような)たちを実名で挙げ、当事者としての見解を示した本。2014年に亡くなってしまったが、社会に思い残すことなく死ねただろうか。口述筆記したものと思われるし、学術的な見解は全くないので、各人物評などは本人の好き嫌いに基づいた印象論に終始しているような語り口も否めないのだが、それでも怒涛のバブル期に自家用ヘリを購入し、数億のマンションを購入して東京地検特捜部にマークされた著者の含蓄あふれる言葉は本書が書かれて10年近く経った今でも変わらず学ぶことは多いんじゃないかと思う。ロッキード事件の本質は田名角栄政権を失墜するためのアメリカの陰謀なんじゃないか、とか、平和相銀事件は検察を利用して本来の加害者と被害者を逆転させて平和相銀幹部の背任として事件を仕立てて、住友銀行の都心進出の足掛かりとして使われたんじゃないかとか。バブル期といえどもメガバンクはヤクザがバックにある朝日壮建のような会社にはメインバンクにならなかったが、その隙を埋めるように大手商社や住専が資金を出して力を付けた、とか。取り分けメガバンクのすまし顔が我慢ならないみたいで、バブル期に金余りでとくな審査もせずに転換社債ワラント債でジャブジャブ中小の不動産屋やノンバンクに融資してきたくせに、というのも今では信じられないけど、貴重な実感なのだろうと思う。

ただ、本書を通じて反権力的な姿勢を崩さないのは尊敬できるけど、同和出身者やヤクザや在日に対してやたら寛大で美化しがちなのは気になる。自分はドブばかりを泳いできたけど、東大出身の赤レンガ組のエリートどもには彼らの気持ちはワカルマイ、という文体とかね。まぁ、でも検察官は基本的に傲慢で(左翼的な傾向を持つ裁判官と比べると、らしいけど)、自分こそが権力であり法律だと過信している傾向が強いらしいけど。

仕手集団やらヤクザやら事件屋やらがたくさん登場する本書だけれど、読んでてやっぱり一番興味持ったのは著者とある意味共犯になってしまった許永中かなぁ。理知的で「誰もが皆彼のファンになってしまう」ような人物らしい。数珠つなぎにして彼のルポも読んでみようかと思う。