midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「日本人が知らない安全保障学」を読む。

ちょうど終戦記念日あたりから読み始めて、読み終わった。面白かった。著者の潮匡人という人について知らなかったが、元自衛官で「諸君」とか「SAPIO」とか保守系オピニオン誌で軍事の必要性を説いてる人らしい。となると頑固な説教親父っぽいイメージがあるが、シェイクスピアの引用やルパンの銭形刑事を例に出したり、イギリスSISを「007」のジェームス・ボンドがいる諜報機関として紹介したり、柔らかい書き方がうまく、文面からすごく理知的な人柄が伝わる良書だった。2014年に出たばかりでホットな内容についても取り上げてるし、今安全保障について整理しておきたい人にはとても良いんじゃないかと思う。

本書では一貫して、反平和主義を掲げている。水と安全は無料ではない。国際社会においては、一般的な道徳が通じない世界である。紹介されているマンデヴィルの「蜂の寓話」のサブタイトル「私悪すなわち公益」というのはなかなかに示唆に富んだ言葉だった。暴力は人間相互の関係では「私悪」(と国家によりされている)が、軍隊は国家の暴力装置として持つべき力であり、単純に平和を唱えているだけでは「安全」を担保できないという。国際社会におけるアクターは今でも「国家」だから、確かに現実として世界の情勢を見つめる軍事のプロからしたらそういう認識なんだろうなと思う。外務省の仕事は戦争を回避すること(外交)。防衛省自衛隊(ないし軍隊)の仕事は、戦争に勝つこと(軍事)であり、どちらが重要かというと、軍事の方であるという。なぜなら、軍事の裏付けのない外交は成功しないから。という言われてみると確かにと納得せざるを得ない説明も勉強になった。特に、挑発的な国に対してヘタレ外交を続けると危険ということを説明するために、ナチス・ドイツのズデーデン地方の併合を国際社会が容認した、要するに独裁国の軍事的な冒険主義を誘発し、平和を破壊したのは「宥和政策」であったというのは説得力がある。

米軍が撤退したら日米安保によって日本が有事の際にアメリカが動くための担保を失うことになるから今後も米軍を配置しておくべきという意見は、今まであまり考えたこともなかったので、「あ、そういう理屈で必要なのか」と納得いった。かといって、今現在日本が侵略された時にアメリカが動くかというと限りなく怪しいというのが著者の見解だけど。

また、日本版NSCについて、とりあえず主権国として発足したのは評価するけど、CIAとして情報を収集する機関がなければ片手落ちであると指摘しており、これもそうなんだ、と初めて知る。NSC事務局は外務省や防衛相など関係各庁からスタッフが選ばれており、数年後にはそれぞれの庁に戻るため、「軍事・安全保障のプロ」がいないらしい。

冒頭の方で紹介される一説「神よ変えることのできないものについて、それを変えるだけの勇気を我らに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する知恵を与えたまえ。」これは神から与えられるものではなく、人間たちが自覚しなくちゃいけない戒めだろう。まだまだ勉強不足だが、自分たちを守るための手段をもっと具体的に考えていかなければならないなーと改めて思う。