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橋爪大三郎「国家緊急権」を読む。

国家緊急権 (NHKブックス)

国家緊急権 (NHKブックス)

安保法案の可決に向けて色んな議論が巻き起こる昨今、憲法違反について考えを整理したくて読んだ本。さすが安心の橋爪氏という筆致で、難しいことを易しく解説してくれる。面白かった。

著者の主張は一貫していて、国家は主権者の生命維持のために時に憲法違反の働きをすべきである。それは全体の公共の福祉のためなら一部の人権を抑制することになることを示唆しており、どのような場合が緊急権の行使に当たるか、どのような手続きに則って行使され、また緊急事態が去った時にどのように平治に戻るかは憲法内に明記することも出来ないし、憲法違反に伴う行動を行政機関が拒否することも出来ないという。本書はこの考えに至るまでの議論を、初学者でもわかるような言葉で丁寧に追っていく。

あと、国際法に照らし合わせれば自衛隊は十分に軍としての基準を満たしているということも興味深い。憲法上は軍ではないし、やれることは限られているけども、国際的には軍として扱われるとのこと。戦車は道路交通法に従わねばならず、陣地を設営する場合には土地の所有者に許可を得なければいけない、というアホな事態になってしまうらしい。

本書では単に災害や軍事的な緊急のみならず、ハイパーインフレなどの経済的な緊急についても扱っており、幅広く勉強になる。東日本大震災の際、もし原子炉が爆発し、関東を含む日本に放射能が降り注いだらどうなっていたか。日本の首脳にその事態をさばき切るだけのシナリオはなかっただろうという著者の言葉は重い。