midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「小隊」を読む。

小泉悠氏の対談相手であり、芥川賞作家の小説を読んでみた。対談でも語られていた通り、自衛隊と戦争に対して細かなディテールを高い解像度で描いた文体や物語が大きな特徴。

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表題の「小隊」はシミュレーションとしても非常に生々しくて、ロシアと自衛隊が北海道で戦闘になった場合について自衛隊出身の著者として息をつかせない緊張感ある文体で面白い。固有名詞としての軍隊の用語や武器、作戦内容などをググりながら読んだ。残虐描写も多く、血と肉と骨と汗と砂と土が混じり合った濃厚で迫力ある表現が楽しめる。

シン・ゴジラ」っぽさもあるのだが、あくまで本作は自衛隊目線で描かれており、政府の思惑やロシア側の事情について「何を考えているのか分からない」ものとして捉えられており、その限られた情報と狭い視野の中で何とか作戦を遂行しようとしたり生き延びようとする姿が印象的だった。

比較すると、他の2編は軍人としての日常と非日常、生と死についての一人語りという感じで、物語性が薄くてあまり楽しめなかった。

「このすぐ後に、あるいは何者かの襲撃があって死ぬかもしれないにも拘らず、自分はその死ぬかもしれない事象の後にくる退屈な仕事中の睡魔について心配していた」といった生死についての印象的なくだりは多いのだが、「小隊」の短くてスピード感ある文体と比較すると文章が冗長でこねくり回してる感があるというか。