「テスカトリポカ」を読む。
前評判通り面白かった!冒頭だけ読んでみようと思ったら一気に引き込まれて、平日だと言うのに夜中までかけてかなり一気に読んでしまった。最近はこういう読書経験はマンガがメインになって小説では減っていたのでかなり新鮮だった。そして、読んでる途中の気分の落ち方もすごかった。「魔王」を読んだ時のような、反吐の出るような暴力と奸智の物語。全編を通してスペイン語やメキシコのスラングなどが出てきたり、キャラの名前がいかにもなスペイン語のあだ名となっていたり、不気味さと残虐さと崇高さを併せ持つ、往年のマジックリアリズム小説っぽさもある。
メキシコとジャカルタと川崎をメインとして、麻薬や臓器売買ビジネスとアステカ文明やテスカトリポカという神を矛盾なく接続したのは凄い。作中で最も巨悪な麻薬王であるバルミロは、同時に最も敬虔だというのが面白くて、皆自分の正義にある意味で忠実で嘘がない。現代的な価値観では単なる残虐で陰惨な暴力行為も、神や尊敬する親への忠実な行為となっている。そんな集団の中でバグのような強力で無垢な存在としてのコシモがまたいいキャラで良かった。読書中、ああ、コシモだけは無事でいてくれ、と願ってしまうキャラなのだ。ラストは救いの無い物語で若干のコシモの人間的な成長が見られて少しほっとして良かった。