midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

 「教養としてのワインの世界史」を読む。

 面白かった。実績ある歴史社会学者であり、かつワインのエキスパートでもあるという著者の能力が遺憾なく発揮された感じ。社会学的な用語である構築主義脱構築や〇を使いながら、ワインというグローバリゼーションの影響の強い文化を論じた講義調の一般書。テーマがきちんと決まっており、社会学もワインも初学者だとしても読みやすく、説明能力が非常に高い。単なるワインの蘊蓄を語りたいという層も、そもそも歴史上葡萄を発酵させた酒がこれほど世界に広まったのはなぜか、みたいな層にも同じ深さで届けさせるって並大抵の力じゃできないと思う。自然環境を加工し、破壊もしつつ人間が自然と共存しながらワインと試行錯誤しながら向き合ってきた歴史を感じることが出来る。

個人的には、これを読んで「獲得的な味覚」という概念を覚えられたのは大きかった。最近は結構頻繁にワインを買っているけど、少しずつでも香りや味の差異を知ることで楽しめる世界があるというのは楽しい。野球や将棋を観戦しようとして楽しめるのはルールを知っている必要があって、単純に選手の肉体の躍動や集中力を楽しむ。というレベルでは楽しめないのと同じだよねという説明はとても腑に落ちた。

今まで生きてきて、音楽を始めとしていろんな分野で学んできたことでもあるし。テロワールというマジックワード的な言葉も、本書でざっくりと解説する「与えられた条件で、どれだけおいしいワインに仕上げられるか」がテロワールの表現だと思えば腑に落ちた。そして、マーケティング的な意味でもテロワールが「パーカーの評価によって画一化されたつまらないワインと一線を隠すもの」的な価値を帯びていると知って、似たような単語は色んな分野にあるなと感じたり。結果として、ワインのおいしさって上下比較する感じではなく、「美味しさがどう違うか」を表しているというのも納得感が凄い。

後は、ワインが国際市場の中で文字通りリキッドアセッドとしての役割を持ちだした現代というのも面白かった。ブランディングだったり、価格の高騰だったり、ホストがドンペリを一気したりとか下世話な感じも楽しめる文化なのは否定できないよなと思ったり。