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webエンジニアのメモ

タックスヘイブン」を読む。

タックスヘイヴン TAX HAVEN

タックスヘイヴン TAX HAVEN

むちゃくちゃ面白くて、読む手が止まらなかった。橘玲という人にちょっと心酔したわ。「亜玖夢博士のマインドサイエンス入門」を読んで、心理学薀蓄を物語形式で読ませようとしてるんだろうけど、まどろっこしくて詰まらんなーと思ってたけど、本作を読んで一辺。金融だけでなく、外交や国際政治学にも通じた凄まじい博学な人なんだなーと感服した。レビューを見ると、薀蓄はともかく主人公3人を軸とした作劇がありきたりでつまらないという評が多いけど、そうは思わなかった。むしろ、きちんと複雑な事件の伏線をラストで回収し(意外などんでん返しが楽しい)、高品質のエンターテイメントに仕上げていることに脱帽した位だ。少し前に読んだ清野栄一「ブラック・ダラー」とちょっと扱う題材がかぶる部分があるけど、本作の方が完成度は高いんじゃないかと思う。シンガポールで起きた富裕な日本人プライベートバンカーの自殺事件をきっかけに、男女の幼馴染3人を主人公としてシンガポールやタイや日本や北朝鮮を舞台として、シンガポール警察や仕手集団や政治家や朝鮮総連東京地検特捜部の権謀術数が入り乱れる巨大な金融事件をめぐる物語。

本書では特にタックスヘイブンを通じた贈与税始めとする租税回避方法だったり、政治家が綺麗ごと並べて開発援助の名目のもとに進められるODAがいかに汚いか、プレイベートバンクとタックスヘイブンとアングラマネーの関係など現代の諸問題を横断して単なる小道具に堕すことなく物語的にうまく絡め、読ませる作りになっている。「パワー・オブ・アトニー」とか初めてしった用語だわ。本書は2014年の書下ろし作なのだが、きちんと東日本大震災以後の日本を元に描けているのもポイント高い。また、小沢 一郎や霜見 誠の事件など、実在の事件や政治家をモデルに登場人物たちを形成してると思われる部分が多く、予備知識があるとより楽しめる。

また、本作は全て著者の取材に基づいた風景描写がされているらしく、シンガポール始めとして、今を切り取った非常にリアルな雰囲気を楽しめるのが良い。さらにインターネット全盛の現代的な楽しみ方として、著者のブログに本作の取材写真が公開されており、読み終わった後に見ると主人公たちが観た風景を本書の抜粋文章付で楽しめるというオマケもあり。実際に著者に話があったらしいけど、映画化したらすごく当たると思うなー。池井戸作品が受けた土壌もあるし。いつの間にか主人公たち3人の配役を勝手に考えて楽しんでいる自分がいたりして、そのくらい楽しめる作品なのだ。