midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

ラテンアメリカ入門」を読む。

cakesで山形浩生がお勧めしていた一冊。タイトル通り、良くまとめた一冊だと思う。著者自身がお勧めできる作品と、ベストセラーにはなったけどイマイチ(ボラーニョ始め、最近の作家は軒並み創作力が弱いらしい)、みたいな作品の評価がわかりやすくて面白い。ラテンアメリカ文学というと、現代で高名な文学賞受賞作品を追ってるようなかなり硬派な読書好きに「マジックリアリズム」という冠と共に読まれてる感じはしていて、多少その雰囲気にのまれて読み始めたことは否めなかった。本書に出てくる作者で読んだことがあったのはコルタサルボルヘス位だろうか。

本書では、主に20世紀から現代にかけての作家たちの「作品自体ではなく」思想信条(革命が起きたキューバチェ・ゲバラカストロなど、後に転向した人を含めて左翼よりの人が多い)や生い立ちに焦点を当ててラテンアメリカ文学全体の動きを読み取ろうとするもの。単なるテクスト好きに留まらず、出版社の名物編集者カルメン・バルセルスだったり時の政治家を挙げていたりして、文学と世界との絶妙な関係性が描かれていて面白い。特に、日本の文壇宜しくラテンアメリカ文学のビック達によるお互いのリスペクトからのディス合戦(文学賞でのガルシア・マルケスとバルガス・ジョサによる「パンチ事件」とかもあるらしい。プロレスかよ)とか下世話で楽しめる。出版社との契約で、毎年何かしら刊行せざるを得ず、しょうもない自伝とか文壇楽屋落ち私小説みたいな体たらくを出す大御所、みたいなね。

特に気になった作家はカブレラ・インファンテやバルガス・ジョサ、ホセ・ドノソ辺りだろうか。あと、本書を読んでも尚のこと読みにくそうだけど、いつかガルシア・マルケス百年の孤独」(著書内でも、発行部数的な社会への影響度・文学的評価共に怪物クラス)は読まないと死ねない感じがする。時代的にプイグだったり映像作品との関連性にも触れているし、巻末には年表付きの作品と同時代の政治の出来事が知るされている丁寧な仕事ぶりで、初心者にはブックガイドとしても読めるのでお勧め。