midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

アンダーグラウンド・マーケット」を読む。

本作も山形浩生氏のレコメンドで知り、読んでみた。短編2つで、コンパクトかつスピーディーな近未来の日本の世界観が好き。2018年、東京オリンピックを2年前に控えた東京が舞台という接待だけど、最近は見ない日がない位ニュースで溢れる電子貨幣が話の軸になっているせいか、まさしく現在の日本の話という感じもする。著者自身の職歴を活かし、主人公たちが面に小売業のECサイトの電子決済部門を構築するITエンジニアであることもあり、彼らの話す専門用語(linuxサーバーで実装してるんだけど、テスト用に使った口座の参照先が本番稼働後もテスト口座のままだったとか、すごくリアルなのだ)が結構理解出来て面白かった。課税から逃れるためにN円という仮想通貨(なんというか、映画の「yen town」をどうしても想起してしまう。)を使った独自の経済圏を構築して韓国、中国、その他イスラム圏の登場人物たちの共通の決済手段として確立した東京が舞台。様々な言語が飛び交う中で主人公たちは正社員という日本のかつての成功モデルから脱落した若者たちなんだが、各々の持つITスキルを駆使して仕事をする中で思わぬアクシデントに合い、ひと悶着を切り抜けるまでを描く。

ジャンルとしてはSFだし文句ないんだけど、結構軽い青春小説的な色彩を持ってるのがこの作品の長所なんじゃないかなと思う。押しつけがましいグローバリズムもないし、お涙頂戴なメロドラマもないし強烈なバイオレンス・アクションもない。あくまでもSF的な要素はガジェットであり、事件に巻き込まれてからも名探偵コナンばりにテンポよく事件解決できるような「軽さ」は本作の魅力だと思う。クレジット重視社会で不渡りを出すことを何よりも恐れ、主人公たちの都内最速の移動手段「ロードバイク」でお得意さんの窮地を救うシーンとか爽やかな達成感があった。ある意味「ズッコケ三人組」に通ずる面白さだ。