midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

愛、アムール」を観る。

愛、アムール [DVD]

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これも飛行機の中で見る。しかも、自分史上初のフランス語音声の英語字幕。でも、ほとんど大意はつかめたと思うので、余程難しい映画でなければ英語字幕でも見れるのかなぁと思ったりした。ミヒャエルハネケ作の、老老介護にスポットを当てたシリアスな映画。音楽家の夫妻が、次第に老いていく妻を介護し、添い遂げ、最終的に同じ世界へと旅だとうとする映画。

物語自体はとても静かで、かつ、説明描写も決して親切ではない。いつの間にか、夫が雇ったヘルパーは怒っているし、訪ねてきた娘は怒っている。そこに至るまでの成り行きは丁寧に追うことはないし、そんなエピソードは端折って当然だとも思える。そのくらい、次第に痴呆でコミュニケーションがとれなくなる妻と、老いて力も知性も失っていく夫のズブズブの介護関係、共依存の関係が描かれていく。自分の理性の衰えを周囲に悟らせたくない妻と、それを汲んで懸命に外界との接触を断つ夫は、それ自体周囲の人間からしたら常軌を逸してしまっているというのが画面を見ていて痛々しい。

相手の幸せを願って、あえて息の根を止めるという行為を実行できる人間がどれほどいるだろうか。無理心中という話ではない。人生の大半の時間を寄り添ってきた二人が、どのようにその終末を迎えるのか。主人公の取った行動は法に照らせば単なる殺人になるだろうが、当人同士の幸せの形からした時にどれほどお互いの理想から距離があるだろうと問われると心もとない。何が幸せか他人に測れないし、ましてや法などという抽象的な決まり事で裁けるほど容易でもない。

ラストシーン、主人公の夫は殺した妻の声に呼び起こされ、異世界へと旅立っていった。彼は妻と同じく耄碌した世界へ旅立ってしまったのか、それは彼にとって幸せだったのか。推し量ることしかできないが、画面の老人は不確かで新たな旅路を一歩踏み出していくような冒険者のように見えた。