midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

又吉直樹「火花」を読む。

以前から著者の「お笑い論」をインタビューとかで読むことがあって(確か、彼女にフラれただか何だかの話で、悲しく話せばすっごい悲しいのに、語り方次第で面白くなってしまう、それが面白いみたいなこと言ってた)、面白い人だなと思っていたんだけど、やっと読んだ感。「実存」とか変に難しい言葉を使おうと努力して不自然な描写が多少目についたし、物語自体は特に真新しい感じはないけど面白かった。小説としての完成度は芸人で言えば劇団ひとりの「陰日向に咲く」に匹敵する面白さ。

主人公は著者と同じく小心者でぶっとんだ行動が出来ない「突っ込み気質」の売れないお笑い芸人で、花火大会の現場で出会った破天荒な先輩芸人に惹かれ、弟子になるところから物語が始まる。二人が芸論を戦わせる描写がメインで、実践しながら成長・失敗していく姿を描く。

芸事に身を置いてる人なら誰でも同じような葛藤してると思われるキラーフレーズが多く、「共感至上主義の奴達って気持ち悪いやん」とか「平凡かどうかだけで判断すると、非凡アピール大会になり下がってしまわへんか? ほんで、反対に新しいものを端(はな)から否定すると、技術アピール大会になり下がってしまわへんか? ほんで両方を上手く混ぜてるものだけをよしとするとバランス大会に成り下がってしまわへんか?」みたいなやいとりを読んでると、そうそう分かる分かると膝を打ってしまう。芸人の有吉はこれを読んで、「恥ずかしい」とラジオで語っていたが、芸人の頭の中だだもれっていう感じなんだろうなーと思う。そういう意味で、24時間常に面白くあろうとする人間の生き方なんて想像したこともないから、彼らの感覚や行動を読んでてSFを読むような新鮮な驚きがあった。何気ない日常の場面でもこうすると面白くなるんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかと試行錯誤する姿。

物語としても、二人とも30台に差し掛かって大した成功はせず、先輩芸人が面白さをこじらせて笑えない失敗をするくらいで、本作の舞台でもある吉祥寺辺りならどこにでも転がってそうな話で終わるのが良い。次回作はぜひ芸人と全く関係ない話とか読んでみたいなーと思う。