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 「世にも奇妙なニッポンのお笑い」を読む。

世にも奇妙なニッポンのお笑い (NHK出版新書 539)

世にも奇妙なニッポンのお笑い (NHK出版新書 539)

 

 相変わらず笑いというものについて考える時間が増えて、前前から気になっていたこの本も読んでみた。面白い!ナイツ塙氏の本と同様、笑いのプロというプレイヤーならではの文体や演出的な面白さがあり、かつ自分たちのやっている表現が歴史的にどのような位置づけにあるか、ということをきちんと体系的に理解しての解説の両輪でめちゃくちゃ面白い。冒頭で紹介される、「日本のお笑いは空気を読むことばかりに徹していて政治ネタで笑わすことの出来ないオワコンだ」と言った茂木健一郎の意見には、結構自分も同意していたところがある。けど、その非常にガラパゴスな日本の笑いの凄さを解説するチャド氏の文章に、なるほどねーと納得する場面が多かった。

 

■日本の笑いの特徴

・バラエティ番組では字幕を出し過ぎという批判は多いが、それがあったからこそ日本語学習になった。
・突っ込みは笑う合図である。ボケが大風呂敷を広げて訳が分からなくなっても、現実に引き戻して笑いに回収してくれる。
・ただ、突っ込みに頼りすぎて、面白くなくても条件反射的に客に誘い笑いをさせているのは良くないと思う。
・突っ込みは英訳もしづらい。「なんでねやねん」の一言でほとんどカバーできる日本語はすごい。
・落語では、あまりに変なことをやろうとすると、「つくりすぎている」と言われるが、漫才では突っ込みのお陰で自由にボケることが出来るので、漫才の方が可能性があると思う。舞台装置も小道具もいらずに出来る。ただ、兄貴分でもあるペナルティのヒデはコント派らしい。
・日本は芸人の数が多過ぎ。新人の頃から一人当たりの持ち時間数分でネタをやる必要があり、本当に競争率が高い。海外では一人の持ち時間は数十分ある。
・くっきーのコントは本当に独特で、何をしでかすかわからないドキドキした笑いがある。
M-1の10年という縛りは、これ以上やって売れなかったら諦めろ、という紳助のやさしさでもあった。10年たって芸人としてそこそこ食べれるようになっても、そこから上昇できない芸人に引導を渡すという意味だったらしい。

 

■海外(欧米)の笑いの特徴
スタンダップ・コメディでは延々としゃべり、ひねくれたことやうまいことを言って終わらせる、というパターンが多い。結果、皮肉っぽく、斜に構えた感じになる。
・笑い声の効果音はツッコミと同じ役割を果たすが、本来なら芸人としては笑い声は入れてほしくない。これは、絵を見せる時に、ちゃんと額縁に入れて警備員を前に立たせるようなものだから。出来ればさりげなく飾っている絵をみて「いいな」と思ってほしいという思い。
・突っ込みは相手の意見を否定しているように見えるので、オーストラリアではそのような接し方に拒否反応を起こす人が多い。
・戦前にはアメリカにも漫才があった。「double act」といい、ボケを「comedian」、「straight man」という。ローレル&ハーディというコンビの野球ネタは有名。
・インプロというコントの劇団が海外では有名。ブルース・ブラザースのようにセカンド・シティ出身のインプロ集団が一世を風靡した。他にもゴーストバスターズオースティン・パワーズなど数多い。ただ、インプロは面白さよりも最終的に演技力が高い人が得をしがちと著者は考えており、アドリブといいつつ笑いを取るためにお決まりのくだりがあって冷めてしまう時がある。
あるあるネタは日本でしかできない。海外では社会構造が複雑、多様すぎて共通認識が持ちにくい。ユダヤ系とか特定の集団を対象にすれば受けるネタはあるが。ツッコミも同様で、「常識的な立場」というコンセンサスが得にくい。
・欧米の笑いで政治や宗教が受けるのは、手っ取り早く受けるからという要素が大きい。日本の笑いはめでたい場での祝福芸の要素が強いので、小難しい話や誰かを揶揄する話が受けにくい。政治や宗教にチャレンジしてネタにしてもあまり受けないので、結果的に淘汰されてしまう。

■芸人として若いころの苦労や面白話。
・師匠制の功罪について。子どもの頃からファンだったジュリー・ルイスのポスターがぼんちおさむ師匠の家にかざってあって、つながった感じがあった。日本の上下関係を学んだり、笑い論を毎日のように話すことで刺激になった。上下関係はオーストラリアでは考えられず、マイトという単語の通り「みんな同期」という感じだが、合理的だと考えられるようになった。
・相方とはあまり遊ばない。一緒にいると、ラジオや舞台でお互いの話を「初めて聴く」ということが出来ないから。同じ夢を追いかける同志ではあるけど、友達ではない。

■笑いを訳すことについて

・パチンコのパのランプが消えて面白いという状況を英訳するのは難しい。英語で似た音と意味の言葉を当てはめる必要がある。
・字幕が表示されるタイミングで全く面白さが変わるので、音が入る2フレーム前まで計算して字幕を入れたりする。
・バレーに例えると、ボケはスパイクでフリがトス。トスがうまくないとスパイクが決まらないので、ピンポイントでボケを面白くすることは出来ない。
・マッドマックスはオーストラリア訛りが強く、アメリカ用には吹き替え版が作られた。

・どつかれてアンダルシアというスペインのお笑い映画。日本ではそこそこ受けたが、やはりアメリカではどつき漫才が受けず批判的な評も多かった。
・字幕は話してる量の3分の1くらいしか入れられない。
・ガキ使は海外でも受けたが、英語圏の人は基本、字幕に抵抗がある。字幕なしで楽しめるコンテンツが死ぬほどあるので、わざわざ英訳した日本の作品を見ようというインセンティブが低い。この感覚は日本人に分かりにくい。