midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「ザリガニの鳴くところ」を読む。

ここ数年かなり話題になっていた感のある本作。図書館で順番待ち予約していたものがようやく届いたので読んでみた。面白かった。特に、著者は初の小説というのが信じられないくらい構成や演出、文章が上手くて驚いた。

色んなメディアや人が紹介されてるのでジャンル分けしづらい、ミステリーであり成長物語であり科学小説であるみたいなことは知っていたのだが、改めて読んでみてもその通りだなという感じ。個人的には失礼な話だがアメリカの「ホワイトトラッシュもの」の物語は大好きなので面白く読めた。

timit.hatenablog.com

 

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上記の記事だと陰鬱で醜悪な人間関係にスポットが当たりがちではあったが、本作では主人公カイアが接する豊かな湿地、「ザリガニの鳴くところ」の描写が美しくて良かった。前半は結構辛い描写が多いのだが、1960年代のアメリカの田舎の雰囲気はこんな感じかぁと文化や生活の描写をアメリカ生活史を読むような感じで楽しんでた。人種差別は色濃く残り、第2次世界大戦やベトナム戦争などの戦争の香りが立ち込める社会。また、食事の描写が多いのも特徴的で、知らない料理や食材が出てきては検索して調べた。著者にとっては自分が生きてきた年代でもあるからリアリティを感じるし、カイアのような人がいてもおかしくなかったんだろうなという。そしてそういった人間社会のしがらみと対照的に、動植物たちのイキイキした描写、空気や光や湿度を感じる流麗な文章が読んでいて気持ち良かった。自分とは全く境遇は異なるが、それなりに「孤独」を感じ、なんとか他人とのバランスを保ちながら自分を支えて生きている自分からしても結構カイアに共感できることも多かった。

ちょっとだけ残念だったのはミステリーとしては若干不自然というか消化不良感が残ったところ。ラストが結構衝撃的な物語ではあるのだが、その事実から振り返ってみると事件が起きた状況と登場人物たちの行動に不自然さが残った。とは言え全体的には夢中になって読めて良い読書だった。