midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「日本の居酒屋文化」を読む。

超良書。偏見というか、アメリカ人の書いた居酒屋論ということで気になった点は否めない。ただ、中身は著者自身が本文で触れている通り、決して「青い目から見た日本の居酒屋」ではない。生粋のどっぷり居酒屋文化に浸りきったおじさんの書く居酒屋論である。何しろ、バルやダイニングなどを冠とするお洒落な店が増えてきた渋谷を「バタ臭い店ばかりになってしまった」と嘆くのだ。バタ臭いって、アメリカ人のことやんけ!と突っ込まずにいられない愛おしいおじさんである。エッセイ的に軽くも読めるが、料理の細かいディテールに関する蘊蓄は少なく、写真もない。大学教授でもあるので、居酒屋を家でも職場でもない『第三の場』として捉え、タイトル通り日本全国の居酒屋を分類しどのように利用されているかを観察した結果をまとめ、さらに良い居酒屋の見分け方まで教えてくれるという優れものである。分類はかなり細かく、闇市上がりの立ち飲み屋みたいなディープスポットから、蕎麦屋や酒屋の角打ち、果てはスナックなど居酒屋としての機能を持つ店の分類まで「言われてみると確かにそうだな」という納得感でいっぱいになれる。そして凄いのが、自国を含む各国の居酒屋との比較論もない、あくまで日本の居酒屋だけの分類になっているのだ。「菊と刀」みたいに日本をエキゾチックに描くでもなく「いきの構造」のような日本人文化論でもないオルタナティブな読み物である。

個人的に著者の居酒屋の好みが自分に近いのもあって共感できる点が多く、店選びという実用的な面でも楽しめた。好みのポイントをいくつか挙げると、①安く、②チェーン店のようなマニュアル化された接客でなく、③観光地じみずに、なじみの常連客が賑わう昔からあるような飾らない雰囲気で、④料理、特に珍しい日本酒や焼酎に強く、⑤BGMがうるさくない(本書ではBGN=バックグラウンドノイズと訳されている)、⑥一人、もしくは二人で静かに楽しめる場所、というような感じだろうか。ほとんど自分の好みと丸被りである。実際、有名店だからというのもあるけども本書に紹介された店で行ったことのある店もいくつかあり(十条の斎藤酒場や王子の山田屋など)、ああいうまったりした雰囲気は好きなのだ。こういう店を選ぶためのコツとして、裏通りにある店を探してみる、とか「ぐるなび」や「ホットペッパー」に頼らず、店の外観から自分の好みに合う店なのか観察する訓練をしよう、などためになる言葉も多い。音楽で言えばジャケ買の精度を高める、みたいなもんだよね。

独身だし家庭もないから気楽に飲めてるけど、もしこの先家庭を持ったらより一層こういうひとときは自分にとって重要になりそうな気がする。まさしく第三の場としてね。