midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

松武秀樹シンセサイザー」を読む。

冨田勲に師事し、60年代から音楽業界にシンセの音を持ち込んだ第一人者による、シンセの開発者や師匠・冨田勲砂原良徳との対談や、YMO矢野顕子といった著名人とを含む自分の過去の仕事を振り返る語りおろしの本。

シンセの初期の音作りに関する話は興味深い。自然音を模倣することから始まり、例えば鐘の音を再現するために倍音の構造を調べ、シンセで再現するための直筆の設計書(生楽器でいえば譜面みたいな)を掲載していたり。冨田勲の、シンセを初期の前衛音楽のようなSE的な使い方をするんじゃなく、絵画のデッサン能力に通じるような音のデッサン力を鍛えて、楽器として音楽を作りたかった、という話も慧眼。スティービー・ワンダーとかマイケル・ジャクソンとの邂逅について語る下りも超ビックで面白い。

開発者との技術に関する話とか過去の名機についての話は正直ちんぷんかんぷんなんだが(それでも、プリンスの音を出したくてlinn drumを買った話とか嬉しくなる)、操作性とかユーザーインターフェースに関する話はためになった。楽器と人間ってそもそも何なのよ、というか。ヤマハの開発者の方が語る「何かを真剣に模倣して便利な代替品を作るとたいがいコケる。でも、コケることでそれがのちのち生まれ変わっていい楽器になる」という言葉も、本書ではハモンドオルガンとパイプオルガンの関係やピアノとフェンダーローズの関係で語っていたけど、ハウスにおけるTB-808とかTR-808だったり、ヒップホップにおけるサンプラーだったり、枚挙にいとまがないほど実績のある言葉である。

あと、オリジネーターだけあって、シンセでの音作りを音楽市場で扱うための権利や仕組みづくりをするために会社や団体を作って活動してたり、自分の音楽的趣味だけじゃなくて文化として音楽をどう扱うか考えている辺りは尊敬の一言。小さく小室哲哉中田ヤスタカtofubeats三者について語る下りもあって、現代のシンセサウンドリエーターたちへのチェックも怠ってない。