「カネと暴力の系譜学」を読む。
- 作者: 萱野稔人
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/11/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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前から読んでみたいなーと思っていた一冊。とりあえず、気になった箇所をメモ。
「ポール・ヴィリリオは、国家はもともと「軍事的捕食者」であったと述べている。つまり、軍事的な強者が人々の生活に寄生し、かれらに貢ぎ物を強要するというのが国家のもともとの姿だということだ。」
「物理的な力を用いることが税の徴収を最終的に支えているのである。」
「社会の中で国家だけが法の名のもとに物理的力を用いることができる。」
「国家とは、ある一定の領域の内部でーこの「領域」という点が特徴なのだがー正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体である」
(ヤクザと国家の共通点について)
「カネの徴収が暴力を背景にして強制的になされる。カネを支払わないでおこうと思ったら、背後にある暴力に何らかのしかたでーたとえば逃げ隠れるなり、立ち向かうなり、懐柔するといったかたちでー対処せざるを得ない。しかし服従してちゃんとカネを支払えば、逆にその暴力がほかの暴力から保護してくれる。この保護がカネの徴収とその背後にある暴力行使を正当化するのである。」
「国家自身が労働の組織化にたずさわっていた。官僚制とはその労働の組織化を通じて発達してきた機構なのである。」
「「暴力への権利」と暴力そのものとの違いは、国家が軍事活動を傭兵や民間軍事企業にアウトソーシングすることができる根拠でもある。国家はそこで、みずからの「暴力への権利」を保持したまま、暴力そのものはカネで買う。それによって、~略~戦争を起こしたり終結させたり、条約を結んだりする権利は国家のもとに残るのである」
「国家が合法的な暴力を独占するということは、その暴力が法的な手続きにしたがって発動されるようになるということだ。この「法的な手続きに従う」という点が、その暴力を正当化する。ー略ーそれは民衆からしてみたら、なにをしたらどんな暴力が国家から降りかかってくるのかが、かなりの程度予想できるようになるということだ。」
「法の規定は、国家の暴力行使をになう人間の性格や気分、心情といったものから暴力の行使を分離する。法は暴力の行使から恣意性を取り除くような働きをもつのである。法を定めることは、国家にとって、みずからの暴力実践を制限する枠を設定することでもあるのだ。ー略ー国家は常に法の規定を骨抜きにし、法を超えて力を行使しようとするだろう」
「例外状態においては、法を措定する主体が、法的規定をまぬがれた措置を法の名のもとに実行するという逆説がうまれる。合法権力が合法性を持ちながら法を超えて活動するという逆説だ。ー略ーアガンベンがこうした例外状態の例としてあげているのは、ナチズム国家である。ー略ーそのきっかけとなったのが、1933年にヒトラーによって発布された、人民と国家の保護のための政令である。この政令は、ヴァイマール憲法における、個人の自由を保証する条文をすべて宙吊りにした。」
「認識すべきなのは、こうした例外状態は、豪不織的な暴力の独占という国家の構造そのものから出現してくるということだ。いいかえるならそれは、法が暴力の実践にたいしてもつ制限をいかに合法性の体裁をたもちながら取り除くかという国家の戦略からうまれてくる。」
「国家が法を超えて力を行使する方法はほかにもある。それは、非公式な暴力をこっそりと活用するという方法だ。」
「アウトロー集団は非合法的な経済活動によって生計をたてているので、つねに国家による取締をうける。いうならばアウトローたちの生業がなりたつかどうかは国家のさじ加減いかんにかかっているのであり、ここに国家がかれらから援助を取り付けることができる理由がある。」
「CIAは麻薬取引をつうじてコントラ支援のための資金を捻出するようになる。麻薬撲滅という大義によってみずからの中央への介入を正当化しておきながら、じっさいにはアメリカ政府の方が麻薬取引に関与していくのだ。」
「労務供給業は、ーすべてではないにせよー非合法な暴力実践から切り離され、国家による合法的な暴力実践のもとに包摂されつつあるのである。「戦争の民営化」で起こっていることと同じ自体がここにはある。」
「規律・訓練は、法を犯したものたちの一部を非行者として支配秩序の維持のために活用しようとする「服従強制の一般的な戦術」の中にくみこまれているからだ。そこでの規律・訓練の役割は、法的違反者たちをおしなべて従順にすることにあるのではなく、「服従強制」をめざす公式的な権力に対して各個人がどのような位置におかれるべきかを規定することにある。」
「法はさまざまな違法行為を管理するための戦略でもあるからだ。それはあらゆる違法行為を一律に取り締まろうとするわけではなく、ある違法行為を支配のために活用したり、各個人が合法権力に対してもつ関係を規定したりする。」
「貨幣は本来、交換よりも、富を吸い上げることの方に密接に結びついているのだ。貨幣がモノやサーヴィスの等価関係をあらわし、商品交換における共通の価値尺度となるのは、そこからの派生としてなのである。「一般的な法則として、税が経済の貨幣化をもたらすのであり、税が貨幣を作り出す。」」
「資本主義が、暴力の実践という経済外的な強制によって人々を働かせるのではなく、カネを稼ぐという希望によって人々を働かせるからである。人間は恐怖より希望をいだくときの方が従順になる。この性向を、資本主義はみずからの労働の組織化の原理としたのだ。ー略ー資本主義は、カネを稼ぐという希望を無限に刺戟することによって、労働を組織化することができるのだ。」