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「暴力の哲学」を読む。

暴力の哲学 (河出文庫)

暴力の哲学 (河出文庫)

ちょっと難易度高いけど面白かった。人間の生の中に暴力(それ以前の「力」そのもの)がどう位置付けられ、社会や政治は暴力のどのような表象なのかを考察した一冊。取り上げられる映画が2pac主演の「juice」だったり、「バトルロワイヤル」だったりと身近な素材だったり、フーコーニーチェやシュミットやアレントベンヤミンなど原著は読んでなくてもさらっと思考に触れたことのある思想家の言を上手く使いながらまとめていく構成が良かった。「暴力を忌避するあまり、かえって想像を絶するような暴力を生産している現代」という指摘は実感としても感じるところだ。どんなに力に関する思考が深まっても、人間はそれをうまく使うことが出来ていない。誰が言ったか「権力は必ず腐敗する」と同様に、国家に移譲される前のわれわれ人間の個々の力ですら、まるで力自体が特有の磁場を持って人間を支配しているかのように見えてしまうくらいだ。暴力を振るわれた時の行動である「反暴力」ですら、イラク戦争アメリカのようにむしろ率先して行う「暴力」の口実でしかありえない。

思想家の思考だけでなく、主に60~70年代の革命や闘争を実践する人間へのまなざしも面白かった。キング牧師やマルコムX(とブラックパンサー党)のように、強大な権力(アメリカ)に対して弱い立場の自分たちを認めさせるのか、それとも自分たちが別の権力となるのかなど、お互いに方法論は違えどアクチュアルに暴力に向き合い闘争していた人間の思考の記録は今読んでも十分ためになる。

欠陥だらけの自分だって受肉した人間であり、意志もあるし力もある。社会に対しても自分自身に対しても、どのようにその力を行使していくのが自分にとって納得できるか、考えて生きていかなければならないと感じた。