「松岡まどか、起業します」を読む。
都知事選でも話題になった安野氏の最新作。前作の「サーキット・スイッチャー」がめちゃくちゃスリリングな近未来のSF小説だったのに比較すると、本作はAIチャットボットのサービスを手がけていた著者自身の経験を十分に活かしたであろう起業(企業)小説という感じで、序盤の方はやや拍子抜けした。特に、起業するまでの経緯で悪人と善人が分かりやすい構図になっていたり、モデルになっている大企業や著名な投資家などが露骨にそのまんま登場してきたりしてちょっとチープなドラマっぽいなと思ってしまったのだが、中盤以降の事業が成長していくフェーズからが面白かった。
何を解決するサービスなのかを見つめ直してピボットし、社員や取引先など関わる人が増えていく中で起きる胃が痛くなるような数々のトラブルでどん底まで落ちながらも、復活していく様は伏線回収や感情をドライブさせられる展開もあって素晴らしい構成だと思う。グダグダな凡百の小説家よりも、ストーリーテラーとして能力が高いなぁと感心した。物語自体は現代の日本なのでSF小説、という感じはないのだが、「物語中の登場人物がAI化して現実世界に影響する」といった技術的な要素が物語を駆動する力を持たせてるのも上手くて、ちょっと「serial experiments lain」を思い出してしまった。