midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「手の倫理」を読んだ。

 

手の倫理 (講談社選書メチエ)

手の倫理 (講談社選書メチエ)

 

 五感の中だと目で見る事による世界認識が人間の社会で重きをおきがちであるが、手を通して「さわる」「ふれる」という動作を通じて世界を捉え直す試みを描いた本。普段意識しない感覚を呼び覚ます感じで楽しい読書体験を出来た。

そもそも触覚を通じた交流を行うことが少ない自分にとってなかなか驚きが大きかった。たださえコロナで接触を避ける傾向は強くなっていて、直接会って人と話すことすら少なくなっているが、会ったとしても直接触れることはより少ない。新年早々いとこの赤ちゃんに触れるのを戸惑った時もこのご時世を気にしたのは勿論だが、何となく感覚の鋭敏な赤ちゃんと触れ合うことへの戸惑いがあったのは否めない。人を抱きしめることが下手なのだ。本書でも医療行為として「さわる」という行為が取り上げられているが、確かに直近の身体的な接触は歯医者に通っていた数か月前の体験くらいのものである。特に愉快・不愉快を感じることなく淡々とした感情ですごしていたが、結構特別な体験だよなぁと改めて思いだす。

後は、触れるという行為はどう考えても性と結びつくよなぁと読む前から思っていたのだが、きちんとそこの領域についても書かれていて面白かった。介護として触れる相手に性的な要素を感じてしまうのはどうしてもあり得ると思う。視覚や聴覚では開かれない世界の広がり方だと思う。その一例として挙げられていた、テレビでスポーツを鑑賞するという行為よりも、もしかしたら身体的な接触(本書の場合は柔道の試合での選手の手の動きを表した)の方が競技を掴む上では楽しめるんじゃないかという説もなかなか興味深かった。