midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「パターソン」を観る。

これも飯田橋ギンレイホールで。ベビドラよりこっちの方が好みだなぁ。ジム・ジャームッシュの最新作。これまでで一番ポップな仕上がりなんじゃなかろうか。相変わらず波風のほとんどない淡々とした作風だけど、笑いどころも随所にあり、映画館でも笑いが起きてた。特に飼い犬がポスト蹴るとことか。主演はアダム・サンドラーで、意識せずに「ヤング・アダルト・ニューヨーク」と連チャンで観てしまった。あと、意外と重要なチョイ役で永瀬正敏が出てくる。

物語はニュージャージー州パターソンに住むパターソンという平凡な男の一週間を淡々と描いた話。毎日決まった時間に起きて、決まった飯を食べてお決まりの同僚の愚痴を聞きながらバス運転手として仕事をし、帰宅後は妻と夕食を食べてその後犬の散歩ついでにバーでちょっとビールを飲みながらマスターとちょっと話す。というループの生活。そして、その合間合間に生活で見聞きしたことの影響を受けながら少しずつ詩を書きためており、創作者としての生活がどういうものかも描き出す。

本作で良いのはやはり7日間を繰り返すループの中に少しずつ違った事件が丁寧に描かれるところ。7日間が起承転結というような作りになっておらず、さながらミニマルミュージックのように同じカットの画面が7回繰り返されるのだ。そこで交わされる会話や食べる物や出会う人は少しずつ違うんだけど、主人公本人でなければ気づかないような些細な違いでしかない。主人公のアダム・サンドラーは流れる水のように、世界に対して立ち止まったり急いだり反抗することなくゆっくり受け止めるようにして生き、詩に残している。その詩にしてもいずれ成り上がりたいとか功名心があるわけでなく、人に読まれることすら想定していない、ただの慰めのために書き留めているという印象だ。物語の終盤でふとしたころから過去作を書き記していたノートを失ってしまうのだが、それほど絶望や怒りにさいなまれないのは、彼が詩を作ることそのものが好きだからなんだろうなぁと感じた。ただ、詩作のシーンでは詩が立ち上がる瞬間というか、言葉を何度か推敲しながら組み立てていくような演出がされていてカッコ良かった。

後、印象的だったのが、主人公以外の登場人物がほとんど有色人種だったこと。奥さんはもとより、同僚にしても良く行くバーのマスターやその周辺の友人やチョイ役の永瀬正敏に至るまでほとんどがそうなんだよね。それでいて別に人種にポイントを置いた演出や会話がされるわけでもなく、ニュートラルな描写なのが良かった。ニュージャージー州パターソンってそういう土地柄なのだろうか。

ちょっと残念だったのが、主人公の詩がそれほどカッコ良いと思えなかったところ。彼自身結構な読書量がありそうだし、試作する上での技術論も持ち合わせているようなのだが、あまり自作にそれが発揮されていない(例えば、押韻したりとかしない)ので、料理があまり美味しそうに見えない料理映画のような感じがしてしまった。せめて詩で痺れさせてくれたらなぁという感じ。