「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」を読む。
今年出版された本の中でもずっと読みたかった一冊。個人的になぜかヒルビリー文化に凄く興味があって、大好きな映画「ウィンターズ・ボーン」はじめとして色んな作品を通じて触れてきたんだけど、本作は決定打のような感じ。アメリカのケンタッキー州のジャクソンという非常に貧困率の高い地域に生まれたものの、高等教育を受けて弁護士や投資会社の社長にまで上り詰めた著者の自伝。アメリカでも昨年ベストセラーになり、特に大統領選でトランプを支持した白人労働者の「分析」的にも読まれているらしい。
著者は自分とほとんど年が変わらないが、これまで生きてきた生活の違いに愕然とする。家系的に連綿と続く貧困、失職、暴力、ドラッグ、アルコール中毒、高校中退、10代での結婚や妊娠など。著者自身が勉強する中で述べているように、社会学者による都市部の黒人分析と非常に重なる部分がある。そして、教育や福祉など制度的に救い取れる部分よりも遥かに根が深い、何をやっても無駄というペシミズム(学習性無力感)、条件のいい職場があっても働くことへの意欲の低さから長続きせず、真実を伝えるメディアも信じず、自説を強調するようなネットの陰謀論に飛びつき、努力することなく責任転嫁をする性質。文章にすると単純に見えるが、親族や自分も含めてずっとこういう性質に浸っているとなかなか気づけないという著者の実感のこもった言葉が重い。勉強していい成績を取って偉くなりたい、という意識を「女々しい」と思ってしまう価値観のことだ。タフでワイルドであることを志向し、建設的な思考を排除してしまう社会のまずさ。学生時代に読んだ、山田昌弘「希望格差社会」に通じる社会の状態だ。そして、有色人種が優遇され自分たちがないがしろにされていると感じ、トランプの言う差別的な言動に感動し、発言の正当性など検証することなく「地元のスポーツチームを応援する」感覚で支持してしまう傾向が強いという。
こういうのを読んで、両親や周囲が真面目に働きドラッグもやらず暴力沙汰で逮捕されるような人でなくてホントに良かったなと思うのだ。幼い頃はうざったかったけど教育にも熱心だったし、そのお陰で今自分がある程度の余裕を持って生きていけている面は大きい。