midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた」を読む。

ヴェンカテッシュ第2弾。NYで研究していた2000年代を振り返った雑多な自叙伝的な内容で、かっちりした論文は同時に描いてたらしいけど、ちょっと散漫な印象はあり。自分の離婚があった時期でちょっと自暴自棄になってインタビュアーの前で泣いちゃったエピソードが描かれてたりとか、リアルだけどね。

基本的な筆致は前作と変わらず、エスノグラファーとしてアングラ経済で生計を立てる人々と共に生活しながらインタビューを試みるという内容。シカゴの郊外を対象としていた前作と比べると、NYでは人々が社会階層や人種の壁を超えて流動的な関係性を結べるところが違いだろうか。本作のハイライトの一つが、ハーレム育ちのドラッグディーラー男性が、ピルグリムファーザーズにまで祖先を辿れるほど名家でお金持ちなのに、デートクラブのマダムをやっている白人女性が新鋭のアートギャラリーで邂逅する瞬間だ。犯罪に貴賎なしというか。

読んでて印象に残ったフレーズは、売春婦は自分を客のセラピストと自称したり、デートクラブのマダムは客の暴力や寝処に困っている女性を助けてると言ったり、何かと正当化するというところ。表の経済圏に戻る時のために、カフェの店員とかみたいなちょっとでいいから表の仕事をしておくようにアドバイスしたり(職歴がないとそもそも就職できない)。勿論そうなんだけど何か説得力弱いよね的な。後は、俺ですらNY旅行中は一泊7000円位の安いドミトリーで過ごしてたのに、一か月1万くらいの生活保護で四人で暮らしてるハーレムの家族がいたりすること。インタビューしていた金持ちの学生が驚愕するのも分かる気がするわ。後は、本作では研究者ではあるんだけど、ドキュメンタリーの映画監督という肩書でインタビューすると、途端に協力的になってくれたというエピソードも面白かった。どのように振る舞うと自分の研究対象から情報を取得できるかというのも学者として必要なスキルなんだなぁと感心した。

後は、気になった点として男娼が出てこないこと。NYならゲイクラブやカルチャーも沢山あると思うんだけど、ヴェンカテッシュの眼鏡にかなわないのか紙面に全く登場してこなかった。売春婦は高級コールガールから安い立ちんぼ女性まで人種も様々で色々出てくるんだけどね。さらに、女性を買う買春男は出てきて、せっかく貴重なインタビューに応じてくれるのに、嫌悪感からか拒絶して逃げちゃうんだけど。意外とこういう点で彼の研究のバイアスは大きいのかもと思ってしまった。