「みんなにお金を配ったら」を読む。
色んな未来予想系の本に出てくるベーシックインカムという考え方について整理してみたくて読んだ一冊。著者はUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)を肯定的に捉えるジャーナリストで、これまで各国で試験的に行われてきた試験運用の結果から、アメリカ社会で実現するとした場合の課題や展望についてまとめるという内容。イーロン・マスクやビル・ゲイツも関心を寄せており、googleの検索回数も伸びており、世界的にもやはり注目度は高まっているとか。
・歴史
アメリカの福祉制度はエリザベス朝のイギリスにルーツがある。救貧法を定め、教会ではなく国家が貧困対策を始めたのが始まり。ちなみにUB40ってイギリスの失業保険の給付申請の書類のことらしい。完全にレゲエバンドという印象しかない。
・UBIを取り巻く人の意識の問題
ギリシャやローマでは余暇と思索を美徳していたが、現代アメリカでは勤勉であることが美徳という考えがある。ベンジャミン・フランクリンのように立身出世したい、UBIのような施しなど要らない、働くことがアイデンティティであるという貧困者も少なくない。だからこそ、フードスタンプへの嫌悪も実体としてある。サンテンスというUBI論者は「仕事がない未来じゃなく、雇用のない未来を」と呼び掛けている。より人間的な仕事をしよう、という訳だ。また、UBIは支給する対象となる人の範囲を限定しなければなりたたない。その制度に何とあずかろうと努力する境界にいる人への差別を強めることになる可能性とその予兆はある。アメリカで福祉を受けようとするのに英語でハローも言えない、など。
・実際の取り組みで気になったもの
ギブ・ダイレクトリーという取り組み、食料でも服でも教育などのサービスでなく、お金を寄付しようというもの。物資では、配達の経路中で役人に掠め取られたり、ピンハネされたりするような社会が非常に多い。個人の口座に直接送金することで、中抜きを防ぐことも出来る。家族の中でも子供や女性など立場の弱い人が強い人間にお金を取られてしまわないように直接送金することで、個人として現金を使い活動する手立てになる。
・政治思想的な経緯
かつてはトマス・モアやマーティン・ルーサー・キングやJ・S・ミルもUBIに近い取り組みを提唱した。リバタリアン寄りの推進派によると、UBIによる貧困撲滅の試みは効果的だけでなく効率的と評価されてもいるらしい。UBIに役所仕事を置き換えるだけで政府の仕事を小さくすることが出来ると。ミルトン・フリードマンが「負の所得税」と呼んだものである。
・導入に対しての課題
UBIを導入するにしても、導入体制をきちんと確立しないと、これまで受けていた社会福祉もUBIもどちらも受けられないという最悪の事態が発生してしまう可能性があある。また、どうやって巨額の財源を財源を確保するんだという議論がどうしても生じるが、実は財源を確保しなければ政策は出来ない、とも限らない。紙幣印刷機と軍隊を持つ国家は、戦争という事業に対していつだってまず支出してから税金を集めてきた。