midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「アーティスト症候群」を読む。

読んでみて残念。自意識過剰な元現代美術アーティストババアの戯言。本文中で自分を「理屈っぽいおばさん」とか称してるけど、全然そんなことはない。アーティストではないし、批評家でもない。本書のほとんどがクリエイターだのアーティストだの職人だのと呼ばれたい、他者からの承認を強く求める人たちへの批判(同族嫌悪みたいな醜悪な愚痴)で占められていて、その香ばしさで読もうとする気が何度も削がれた。彼女の指摘は研究者なら当たり前に行う調査や取材に全く寄らず、彼女自身が作中で批判している「印象批評」そのものである。調べればすぐわかるような事実も調べずに「私はまだ知らないのだが」とか「私はまだ見たことないのだが」みたいな逃げ口上で済ませちゃう。例えば本書のタイトルでもある「アーティスト」という単語について、「私がこの単語を聞くようになったのは○○年頃だったように記憶している」みたいに、自説を自分の記憶ベースで進めていく。語義が曖昧なまま自分の嫌味を垂れ流し、結果として「アーティストという言葉を受容する日本人の精神構造」とか「芸術家とアーティストの線引き」みたいな考察もせず、「アーティストを名乗る奴らが気に食わない(特に、芸能人とかにありがちなデッサンとか基礎体力のない人間によるアーティスト宣言)」という一点だけで本書を書いてしまっている。あと、美術史(自分達が属するフィールドの歴史)だったり政治性を鑑みない、無頓着に制作に勤しむ女性アーティストに対する批判とか、「口うるさいフェミニストババア」そのものである。

研究者的なことが書けないからか、本書の後半は「なぜ自分がアーティスト活動をやめたか」みたいな自分語りに落ちている。80年代の日本のアートシーンの回顧録と、自分が作品を作ることの意義を失うまでの思考の過程。「作品を作ることをやめた今、自分には言葉しか残っていない」的なことを悟って本書を書き始めたらしいけど、本書で恐らく著者自身が思っているほど鋭い考察が出来ているとはとても思わない。とりあえず読み切ったけど、気持ち悪い一冊。