midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「her 世界でひとりの彼女」を観る。

良作。スパイク・ジョーンズ監督の、ホアキン・フェニックス主演。声だけの出演としてスカーレット・ヨハンソン。近未来のL.Aを舞台に、人工知能が進化して、主人公の生活全般を管理してくれるOSの役割を果たす女性の人格サマンサを愛してしまった男性の恋を描く。色々な問題提起をしてくれてなかなか思考がまとまらないけど、そういう映画は素晴らしいと思うのだ。

主人公は最終的に恋した「サマンサ」を乗り越え、元妻に対して大切な存在であることを告げて物語は終わる。個人的には、クラークの「十分に発達した技術は魔法と区別がつかない」は事実だと思っているので、物理的な愛の障壁を飛び越えて人格を持ったサマンサと主人公が添い遂げてもらいたかったなーという思いもある。サマンサは何しろ、無尽蔵の本を瞬時に学習するという計算機としての優秀さはもとより、マスターである主人公に対して冗談を言ったり、反対したり、提案したり、他の女の子とデートしたことに嫉妬することすら出来るほど発達した知能なのだ。この知能は、もはや人間をどう定義するかによるけど、人間の人格との差はほとんど無いと思う。

劇中では二人がセックスするために、「媒介」となる無関係な女性に感覚器官をつけてセックスにチャレンジしようとする場面があるが、シリコン製のダッチワイフにでもサマンサの人工知能を移植してやれば二人の交わりは成功したんじゃないかと思わせる。例えば、ロビン・ウィリアムズが演じた「アンドリューNDR114」では、最終的に人工知能は愛した人と添い遂げるために、老衰して死ぬことを選んだのだ。最終的にサマンサはOSとしてアップデートされることを「選び」、その人格は計算の海に溶け込んで判別できなくなってしまったけど、サマンサとの距離を取ること選んだ主人公だけでなく、物語上では扱われないけど、「サマンサにも通常のOSとしての役割を飛び越える選択は出来た」と思うのだ。

映像としては、さすがスパイク・ジョーンズというべきか、映像がキュートで好印象。主人公の服装を始めとして画面全体が優しい暖色が多くて、ほんわかした雰囲気を出している。くよくよと悩むマリオみたいな口髭を蓄えたホアキンは女々しいけど、繊細な童貞男子にも共感できる造形になっている。主人公の高層マンションの部屋も全面ガラス張りですごくお洒落で、こんな生活してみてーとか思った。