midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

平田オリザの本で取り上げられてたブレヒトの「三文オペラ」を読む。

三文オペラ (岩波文庫)

三文オペラ (岩波文庫)

演劇をこういう脚本?みたいな形式で読むこと自体初めてで、まあ表現様式としては実際の生の演劇を鑑賞することとは全然違うことだとは思うけども、とりあえず読んで見た。んでも、感想としては微妙な体験だったなあ。

まず、翻訳がブレヒトの著作を全て訳してるという岩淵達治って人なんだけど、解説と本文を交互に読み進めていく中であっさりこの人ネタばらししてくれるので非常に興味を削がれた。演劇人にとってはもう古典過ぎてストーリーなんて既知のものとしてるのかもしんないけど、俺は初見なんじゃ!という感じ。

解説も充実しすぎて、純粋な読み物としてはどうかと思うレベル。この台詞はこの当時のこういう状況を皮肉ったものであり…みたいな解説プラス先のストーリーの伏線になっている、みたいなことまで教えちゃうもんで楽しめる幅があんまりない。そして何より、肝心のストーリーがそれほど面白いと思えない…。

ブレヒトは演劇は観客に舞台で起こっている出来事を追体験させるものではなく、出来事を説明するだけの媒介であると言ってるみたいなんだけど、そういう理論がどの辺に生かされてるのかは正直文中からは判断できなかった。俺の読解力不足もあるかもしれんが、初上映以来色んな文脈で演じられてきた中で、観客たちはメックやピーチャムの厭世的で現実的な社会に対する言葉とかポリーの夢見がちな乙女の言葉に共感しちゃってるんじゃないかなーと思う。

そのくらい場所や細かい時代を問わない、普遍的な「市民社会に対する批判」として読めるし、異化作用ってこの批判を新たな認識として取り入れていくことを言うのかな?

まー何にしても結末が「意外」というより「は?」と言わざるを得ないくらい尻切れトンボで、全く「説明を欠いた」ものだった。これは物語として夢オチ並に良くない手法なんじゃなかろうか?この物語ってどういう文脈で評価されてんのかよく分からんなー。


続いて、ベンジャミン・バトンを見る。

これもあんま面白いと思えなかった。上映時間が長いだけでも俺の中でやや減点だが(まあ伝記モノといった様式なのでしょうがない面もあるが)、ベンジャミンと触れ合っていく人々のエピソードがどれも消化不足という感じがするし、何よりベンジャミン自身の数奇な生に対する問題意識があまり描きこまれないまま後ろ向きに物語が収束してしまう感じがした。個人的にもうちょいお母さんとの関係は描きこんで良かったんじゃないかと思う。お母さんが人生の初期において自分を特異なものとして扱わないということの意味があまり伝わってこない。念願の妹も出来たのに一度しかシーンに映らないし。ここは将来のベンジャミンの思考形成にものすごく影響する部分だと思うんだけど、すごい恵まれてるはずなのに何か環境に反発してる印象ばっかでベンジャミンが何を指針に生きてるのか良く分からない。フォレスト・ガンプに似てるけど、彼が物語の中で「彼に関わる人々」を中心に描いていく黒子的な役割を果たしてるのに大して、ベンジャミンは微妙な立ち居地なのでフォレスト・ガンプより締まりが悪いかも。

家を出てからも適当に働いたり女遊びしたりするわけだけど、あんまり自身の病に言及する描写がない気がする。要するに、病は彼のアイデンティティ足りえてないので、「特異な病を負った男の平凡てかグータラな生活」が描かれていくことになる。子供が出来て逡巡する場面とか、彼女の元を逃げてインドで放浪してたけどまた不意に現れるとか、「もうちょっと自身の病に対する理解や考えがあったら、そんな無責任な行動取らないでも事前にいくらでも対処できたんじゃねーの?」と思う行動を取っていくので、ベンジャミンに共感しながら物語を追うことは難しい。あれだけお母さんが熱心だったキリスト教的な要素もほとんど感じないし。病を理由に親であることを放棄するのは道徳的にも受け入れられそうに無いよなー。

物語の構成としても、日記を読んでる「現在」の時間でハリケーンが恐らく何かを引喩してるんだろうけど何を表してるのかよく分からないし、ベンジャミンが「大事な人の出会いの記憶こそ思い出せない」と日記に記してる割には全然その人たちが重要だと思われなかったりで何がなんだかさっぱりだよ!

てか、普通に晩年は2000年代というつい最近の出来事なのに、科学的に貴重なサンプルである彼を医者とか専門家が研究対象に取り上げないっていうのはどういうことなんだろう?そういうとこばっか気になる。段々若返っていく男が身の回りにいたら普通そういう専門家に相談すると思うが、老人ホームの人々もタグ・ボートの船員も誰もそういう疑問は持たずに、なんとなくそういうもの、で流してるのが不気味だ。

いろんな意味で「段々若返ること」が彼にとってどういう意味があるのかに答えられない物語。若いブラピがかっこいいだけだな。「レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い」の美しいブラピを思い出した。