midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「マンガの描き方」を読む。

スコット・マクラウド氏の著作2冊目を読んでみる。

timit.hatenablog.com

前作はかなり「マンガとは何か」とか「何を表現しうるか」みたいな抽象的な解説に比重が置かれていたのに対して、本作ではもっと具体的にストーリーを語るためにマンガ的な文法を使ってどのように表現できるかを論じていて面白い。日本マンガや手塚治虫の仕事にも触れつつ、コマを使って絵と言葉で物語を紡ぐことに対して色んな作例や練習問題をもとに解説しているのが面白い。

本書は映画志望の人もすごくためになると思う。エスタブリッシュ・ショットみたいな言葉が出てくるだけでなく、カメラ位置だったりショットの切り替わりだったり、映すショットと省略するショットの選択だったりとかなり映画の授業を受けている感じ。コマの割り方、キャラクターの表情やボディランゲージなどのマンガ家に求められる技術を通して、読者を夢中にさせるためのストーリーテリングの技法についても解説している。

作劇のため、あえて読者の視線や関心を逸らしたりするミスリードの仕方もマンガで解説していたのが面白かった。マンガ表現として手品をするのだが、吹き出しを使ったセリフと視線を誘導するコマ割りで、読者も騙されるんじゃないだろうか。語ることの奥深さを感じられた。

AWS 継続的セキュリティ実践ガイド」を読む。

AWSを使って構築するシステムについて、セキュリティ系サービスを使ってログの収集/分析する基盤の構築方法を解説する内容。著者はElastic製品に知見があるようで、ログのフォーマットの揃え方とか苦労してきたんだろうなというのが滲み出ていてよかった。全く知らない、使ったことのないサービスはほとんどなかったが、細かい活用方法やSIEM構築あたりは未知の領域だったので楽しく読めた。かなり大規模なサービスではないとここまでしっかりした分析基盤を作るよりも先に機能開発の方が優先されがちだとは思うが、次の次の一手、というくらいの感覚で読むことが出来た。

「マシーンズ・メロディ」を読む。

面白い内容なんだが、史実と物語の切り分けが曖昧でちょっと読みづらさも感じた。あアメリカ産のhouseやtechnoがフランスやヨーロッパでどんなクラブやどんな人に受け入れられていったかという歴史の部分は、割とアメリカ起点で語られがちな物語とも違って面白いのだが、明らかに実在のアーティストをモデルにしてたり実名で登場するキャラクターと架空のアーティストが同じレベルで出てくるのでちょっと判別しづらい。「へー、知らなかったけど当時こんなアーティストがいたんだ」と思って色々検索しても辿れなくて気づくという。架空のアーティストのエピソードでも生々しいからリアルに感じてしまうんだよな。同じ漫画というメディアで例えるなら「るろうに剣心」の剣心と斎藤一のような感じだろうか?

アメリカとフランスで同じ曲の需要のされ方が違うというのもポップカルチャーでよく起きる現象かと思うが、1980年代、90年代のタイムラグのなる文化の伝播の感じが懐かしくもあり楽しめた。

個人的には、KraftwerkNew Orderは本当に偉大だったんだなというのが新鮮だった。両方のアーティスト共に自分はすごいファンという感じではないのだが、彼らのファンであるアーティスト(デトロイトテクノの第一世代や電気グルーヴなど)は自分もファンであるという孫みたいな関係性なのだ。もちろん彼らの全盛期の聴かれ方や熱狂ぶりを体験することは出来ないので今彼らの楽曲を後追いで聴いても当時の空気感は味わえないことはわかるのだが、「こんなかっこいいアーティストを知ってるのは自分だけだ!」みたいなキッズたちがアメリカにもヨーロッパにも一定層いたんだなと思うとなんか微笑ましく思えた。

AWSコスト最適化ガイドブック」を読む。

コストという観点でAWSのサービス構築を解説した本。最適なアーキテクチャを選択するという章についてはある程度実践できてるものの、予防・予測周りの知見や実践が足りないと感じた。特にタグ付けについては監視の有効/無効を判別するために使っているのがほとんどなので、どういう断面でコストを可視化すべきか合意をとった上できちんと付与していった方が良いのかもと感じた。あと、コンピューティングリソースとしてLambdaと並んでApp Runnerを紹介してるのも新鮮だった。まだサービスして成熟しておらず、機能的に制限ある印象であまり実践で使ったことがないのだがFargateとLambdaの中間くらいの感じで今後利用検討しても良いのかもと感じた。

「マンガでわかる地政学」を読む。

マンガでわかる系シリーズで面白そうなテーマだったので読んでみた。読み始めてすぐ若干違和感を覚えたのだが、著者のプロフィール読んで少し納得。出版自体もPHP出版だし、参政党とかと繋がりのある保守的な人のよう。なんか倭寇とか帝国主義時代の日本の侵略行為について妙に評価してたり擁護的なので少し違和感が残った。研究者ではなく講師のようなので、一次資料の収集や調査・研究をするのではなく日本の素晴らしさを伝えたい的な主張が滲み出てる感じだった。

とはいえインドやブラジルの事情の説明とかは知らないことも多くてためになったし、高校生くらいならサクッと読めて楽しめる。

「水族館飼育員のキッカイな日常」を読む。

基本的には緩めで笑えるコミックエッセイなのだが、なかなか一般人には実態がつかめづらい水族館の日常を描いていて面白かった。普通にお金を払って観覧に行くだけの客と違い、生き物たちの飼育員でもあり研究員でもありイベント企画屋でもありイルカショーなどのパフォーマーでもあるという彼らの生態も水族館の生き物たちと同じくらい多種多様で面白い。

いわゆる動物たちの世話では、個体ごとに性格も全然違って特定の飼育員からじゃないと餌を食べないとか、水族館マニアは個体ごとの名前を覚えていて識別できてるみたいな話は当然といえば当然だが、彼らにとってはtechnoとhouseの音楽とか区別できないだろうし興味もないだろうなと思うので共感できたりする。著者自身も基本は美大出身のアーティストなのだが、色んな個性的な人が同僚に多くて大変だろうけど魅力的な職場だなぁと思う。職種ごとの大まかなキャラ紹介なども自分の職場の人に置き換えるとあの人かな?と想像できたり。

普段全く見れない水族館の裏側のエピソードは本当に興味深くて、企画展の前は通常業務をやりつつ色んな外注業社へのやりとりでヘトヘトになって館内で夜を明かしたりとか、色んな生物の遺体や餌が保管された魔窟のような冷凍庫とか、他の水族館から異動する動物たちの搬入・搬出だったり、海水を水槽に取り入れるための大規模な神殿のような設備などは一生見れない気もするし、社会科見学的に見てみたいなと思ったりした。

こういう仕事の現場の解像度が上がると、自分が働いているITの現場はまだマシだと思えたりする。今はITの経済規模だったり労働市場の価値が上昇しているのでそれなりに余裕を持って暮らせているが、おそらく本書に紹介される同僚たちも、今の自分と同じように仕事が面白くて、生き物たちに対する愛着や興味をエネルギーに働いているのだなというのが伝わるのに、経済的には大変そうに見えるのだ。休日も釣りやキャンプなど生物たちへの興味を軸にアウトドアな生活をする人は、休日もOSS活動したりコミュニティ運営してる人たちに近いパッションを感じる。

専門性の高さやスキル、パッションが高くても経済的に潤わない人たちが、上前を掠め取るだけとか実態の薄い管理業務をやるだけのブルシットジョブ的な仕事をする人よりも潤う社会になればいいのにとは本当に思う。

「だれも教えてくれなかった エネルギー問題と気候変動の本当の話」を読む。

エネルギー問題と気候変動についてバンドデシネで分かりやすく学べる本。地球の資源からエネルギーを抽出して、重いものを持ち上げたり高速移動ができるといった肉体ではとても出来ないことが出来るようになった人間が活動することを、パワードスーツを着て生活してるようなもの、と絵的に表現して親しみやすく読める。

決してヒステリックに警鐘を鳴らす訳ではなく、抽象的で科学者的な固さで理詰めに説明するのでもなく、人間の歴史、文化、宗教、政治や国際情勢など人文学も含めた横断的な知識でエネルギー問題について論じている。「2084年報告書」を読んだ時にも感じた個人の自由や民主主義の限界のようなものまできっちりと触れており、今の時代に生きる人間として意識高く、解像度上げて取り組まなきゃいけない問題だよなと改めて感じる。身もふたもない事を言ってしまうと、個人の生活からエネルギーの利用を自主的に制限する「エコな生活」を志向するよりも、強権的な政府が強制的に個人の利用可能なエネルギーの割り当てを制限したり、エネルギーを大量消費する人が減る方がエネルギー問題や気候変動に対して影響が多かったりする。原子力発電だって火力発電に比べてはるかにクリーンな発電であることを本書は説明しているし、一昔前まで自分が持っていた考えをアップデートしていく必要性を感じる一冊。