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 「サーミの血」を見る。

サーミの血 [DVD]

サーミの血 [DVD]

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2018/06/06
  • メディア: DVD
 

 結構前から見てみたかったアップリンクの配給作品。1930年代のスウェーデン北部を舞台に、人間扱いされず差別されながら放牧生活を送っていた少女が自由な生活に憧れてスウェーデン人となる経緯を描いた非常に重い作品。監督は何と自分と同い年で、自身もサーミのルーツを持っており彼女の経験も折り込んだ内容になっているらしい。

年頃の少女エレ・マリャが対峙する差別や暴力の直接的な描写は、やはり痛々しく目を背けたくなる。直接的な敵意を持って積極的に傷つけてくる人間から、彼女の聡明さを知っており何かと好意的な振る舞いを見せつつも「人間扱い」はしないという寄宿学校の教師のような態度であったり、無知や単純な好奇心ゆえに心の奥底に無遠慮に飛び込んでくる同世代のスウェーデン少女たちのような態度であったりと様々なグラデーションがあり差別の難しさを実感させられる。一方で伝統的な生活を送る家族や妹からも距離を置かれたり邪魔もの扱いされて反発したり、彼女自身の内面も思春期特有の揺らぎがありつつ、それでも自由なスウェーデン人としてのアイデンティティを熱望するのだ。この非常に繊細な感情の機微を表現した主演のレーネ=セシリア・スパルロクは実際にサーミとして放牧生活を送る演技経験のない少女ということだが、ホントに凄い。かたくなで不安げな目力がめちゃくちゃ印象に残る。

そして、個人的に世界各地に今も残る差別との違いという点で言うと、言語や外見ではほとんどマジョリティを区別がつかないというところに驚きがあった。エレ・マリャはサーミ語とスウェーデン語を淀みなく話せるバイリンガルであり、十分とは言えないながら学校でスウェーデン語の読み書きを習得し読書によって文化を享受しているのだ。同世代のスウェーデン少女と比較すると小柄であることは否めないが、服を着替えるだけで周囲の対応が一変してしまうほど見分けがつかない。要は、肌の色による差別や言語(訛りなど)によって判別されがちな欧米的な差別と違い、「二つの文化圏を越境しやすい」というのがとても本人のアイデンティティを不安定にしやすく作用するように思えた。日本における同和問題在日朝鮮人の問題に近いかもしれない。

今ではサーミであることによる公的な差別は改善させているようだが、現代と同じ時間軸である本作品の冒頭でもさりげない差別意識が表現されていて印象的だった。「なんとなく、あの人たちって不作法だよね」的な。人類が完全に差別をなくすことは不可能だと思うが、不当な扱いがなるべく無くなるような仕組みをこれからも作っていかなくてはいけない。