「ダークウェブ・アンダーグラウンド」を読む。
近年コインチェックのNEM流出やスノーデンの告発とかで色々と話題になっていたダークウェブ界隈について、その歴史的な成り立ち、現在の住民の生態系、セキュリティに関する実装技術、経済学、社会学、哲学など思想的な背景まで幅広い観点からまとめた良書。註が多く、それだけでも楽しく読める。
・ディープウェブとはgoogleなどの検索エンジンのクローラーがインデックス化することのできない領域にある文書やwebサイトを指す。今ではクロール可能な対象は全体の4%にすぎない。
・ディープウェブとダークウェブは全然別ものである。ディープウェブには認証その他でアクセス制限があるが、ダークウェブはtorなどのブラウザを使ってオニオンルーティングすれば誰でも閲覧できる。
・「情報はフリーになりたがる 自由であり、無料であるということ」ウィキリークスのジュリアン・アサンジの言葉。
・PRISMという監視プログラムはグーグルなどのサービスにバックドアを仕込みユーザのトラフィック情報を収集するというもの。スノーデンが告発した。
・PrettyGoodPrivacyは90年代のネット普及期にOSSとして公開された。こういう適当なネーミングって素敵だよね。
・「シルクロード」はドラッグのebayと呼ばれた。ちょっと前に読んだル・ルーの仕事みたいだ。通信はPGPで暗号化されていた。思想的な主張を明確に持って活動しており、ストリートの暴力的なドラッグに関するマーケットを破壊を目指していたらしい。また、自己の身体に対する所有権を軸に、ドラッグを国が規制することに対するアンチテーゼを発表していた。さらに、自己防衛のための武器所有についても認めるべきと主張していた。tony76という管理者のアカウントがあったが、中の人のゴタゴタで逮捕されて終わった。
・エスクローという買い手と売り手の間に第三者が入り送金を保証するシステムによってマーケットが成立していた。メルカリとかも導入している手法。
・真偽は不明だが、色んなヤバいサイトがあることは事実。
殺人請負サイト「ベサ・マフィア」。
人身売買サイト「ブラック・デス」。アイリーンという女性が誘拐され売られそうになったらしい。
スナッフビデオサイト「ウクライナ21」
児童ポルノ ウクライナのLSstudioやlolita cityというサイト。アノニマスからDDos攻撃を受けてユーザ情報が流出したらしい。
児童ポルノは勿論オリジナル映像に著作権がないので、一度公開されるとコピーし放題となり、結果的にビジネスにし辛いという点が被害を抑えている現状があるらしい。
・情報への自由なアクセスに関する思想として、ハキム・ベイの一時的自律ゾーン。ピーター・ティールの海上都市構想の背景にある、アメリカ人的な「独立」という概念。ニック・ランドの新反動主義と暗黒啓蒙。それに影響を受けたスティーブ・バノン。文化面だとハイパーダブのkode9にも影響を与えていた。ハイパーダブは人間とマシンを複製化する情報ウィルスと定義している。近年ではヴェイパーウェイブの運動も該当する。
・フェミニズム ゲーマーゲートと告発されたゾーイ・クイン。カエルのペペ。インセル(強いられた禁欲主義者)によるミソジニーや、お行儀のよいリベラリストやポリコレを嘲笑う風潮。
カリフォルニア・イデオロギーは自分の考えに一番しっくりくるかもしれない。テクノロジーと自由を礼賛する文化的左翼。
・レッドピルとブルーピル。元ネタはマトリックスで、レッドピルは真実と向き合い、ブルーは幻想で生きることを指す。
・MGTOWムーブベント。女性を軽蔑し、関わりを絶つことを目的とする運動。参加者の中でランク分けされており、最終的に解脱を目指す。
・プラウドボーイズというフレッドペリーに身を包んだ西洋至上主義の男性もいる。マスターベーションとポルノを禁止する。ピックアップアーティストのような男根主義にも通じる。