midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「日本の夜の公共圏:スナック研究序説」を読む。

「スナック研究会」なる胡散臭い団体にサントリー文化財団助成金を出して出された本。首都大学東京の教授他多数のインテリでスナックを愛する人達が、真面目にスナックというざっくりとした営業形態の店を論じていて面白かった。毎回の会合もスナックで行い、ママさんにも話を聞いてもらったとかいうエピソード始め、著者が皆して仕事の片手間で適当にやってるんじゃなくスナックを心から愛しており、少しでも光を当てようとしているのが伝わるのが良い。めちゃくちゃ上手い酒や凝った料理があるわけでも、絶世の美女がいて相手してくれるわけでもないスナックになぜ惹かれるのか、というのを自己分析している感じもある。

内容としては、風営法をはじめとする法、行政からの様々なかたちでの規制、カフェをはじめとする成り立ちや歴史、社交の場としての機能、芸者さんからスナックのママさんに連なる女性論など、様々な観点からスナックにスポットを当てて面白い読み物になっている。そして都築響一氏をはじめとする著者たちの対談もすごく面白い。気になったフレーズやトリビアを挙げていくと、①海外では「夜・外・女性」というセットだと大体セックスがらみになるのに、それを前提としないスナックという形態は世界的にも極めて珍しい。②barとの違いはカラオケがあること。③超金持ちの社長と貧乏企業社員がお互いの素性も知らずカウンターで隣合って仲良く飲めるということ。イギリスのパブだって階級別に別れてるらしい。④小料理屋の簡易版がスナック。⑤仕事と家のワンクッション。⑥一人当たり店舗数で観ると、圧倒的に九州や北海道などの地方が多い。⑦地方ではそもそも飲むところがスナックしかなく、親世代と子世代が一緒の空間で飲んでいたりする。⑧スナックの創成期は店にジュークボックスなんかがあって、店側が選曲したりお洒落な雰囲気があったけど、カラオケを入れて客が演歌を歌うようになって客側が雰囲気を作るようになってダウングレードしていく。⑨目立つ必要がないので、食べログにも載らず、中が窺い知れない。星の数を見て来店する奴なんか相手にしない。⑩スナックの前身、カフェ・タイガーでは女給さんの人気投票があり、ビール一本で投票権が配られ、150本も買ったアホ(菊池寛)がいた。まんま現代のAKB商法。⑪食道楽という小説の描写を分析して、「旧来型の「深窓の令嬢」を擁護する陣営がこの「良妻賢母」型に対し、「そんな事は召使のする役、大家の奥様が自分で料理をするという下卑たことがありますか」という批判を浴びせかけることである」というように、「歌を詠め、詩を作り、琴を弾き、茶や花を知る」能力が望まれていた時代があったということ。もちろんこれはこれで性差別的だけど、超大金持ちの女性にも「良妻賢母」を求める現代からすると隔世の感というか退化している感にびっくり。明治のキリスト教伝道のために来日した神父が「日本の婦人は社交界に出ないから、芸子は其代用として居る」なんて分析していたりもしたらしい。

自分自身も「スナック」に入ったことはないけれど、「クラブ(特に小箱)」という良くわからない営業形態の店で過ごしてきた幾多の時間があり、その先輩としてのスナックという場で行われていることもやっぱ近いんだなぁと勉強になった。今住んでる家の小さなスナックはたくさんあり、残業で疲れてヘロヘロで帰る道すがらスナックから楽し気なカラオケの歌声が聞こえてきたりして、いいなぁなんて思っているのだ。