midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「これからのエリック・ホッファーのために: 在野研究者の生と心得」を読む。

著者は自分より年下という。山形浩生が推薦していたので読んでみた。面白かった。タイトル通り、日本で在野の研究者として生きたエリック・ホッファーのような人達の研究スタイルとライフスタイルから、同じく普段は清掃アルバイトをこなしながら日本文学を研究する在野研究者である著者が学ぼうとする様を著者と共に読み進める一冊。十数人の著者のうち、知ってるのは学生時代学んだ社会学関連の小室直樹だったり、南方熊楠みたいなビッグネームのみだったけど、大いに楽しめた。

著者は前文の通り文学研究をしているのだが、それにも関わらず民俗学や生物学、社会学、哲学、政治学、経済学と色んな領域の研究者にアプローチできる知識量に驚く。そして、単なる小学生向けの伝記にありがちな「研究でなく研究者の道徳的な面に重きを置いた美談」とはせず、仮に他に糊口するための本業を持ちながらつつましく生きた者であっても、時には後年の研究の批判によってその研究者がどのように読まれ評価されているかという例や、研究手法自体の誤りなんかも指摘しながら、かみ砕いて専門家でないものでも楽しめる読み物になっているのも凄い。研究内容とは全く異業種の本業でもしっかり働きぬいた才人もいれば、実家や親戚、あるいは自分の後援会など様々なバックアップに寄生して研究を全うしたものもいるし、自分の研究発表の場を国外の科学誌や自前の出版社から出し続けた者まで、ホントに千差万別。研究費を浮かせるために図書館遣いのエキスパートであった人の話とか我が事のように読めたし。

大学という機関の役割も大分変化しつつある現代。特に日本では「実学」とかいうマジックワードを基に、文系研究をさも無駄な学問とでも言わんばかりに縮小させようとする動きが本格化しているけど、潤沢な資金なくとも自分が気になる事象を障害追い求めて、その思考過程を論文なり作品や標本などで残せた研究者たちの姿勢を学ぶ視点は重要になっていることと思う。たんなる趣味として楽しむだけでなく、仮説・検証して形に残すこと。自分への戒めとしてもグサグサ刺さるフレーズは多かった。本書の冒頭で取り上げられていた、アーレントの言う「レイバー」に留まらない、「ワーク」が今の自分に出来ているだろうか。