midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

横浜駅SF」を読む。

ネットで話題になってあっという間にカドカワから書籍化された一冊。一日で一気読みした。著者は生物学研究者ということだけど、良くも悪くもあんまりそんな素養は感じさせず。面白かったけど、SF的な面白さかというとちょっと毛色が違うかも。後書きでも触れてる通り、しっかりした設定を煮詰めずに、仁瓶勉「BLAME!」のパロディ(自動生成する超巨大都市と、その中を孤独に彷徨うハードボイルドな主人公、という世界観)として発信した近未来SFを中途半端に作品化してしまった感じ。現代の日本より数百年後、「冬戦争」と呼ばれる一大戦争を生き延びた日本が、自動生成を進める横浜駅に侵食され、本州の99%が横浜駅の「エキナカ」となった時代に、「エキナカ」から廃棄される物資を頼りに生きていた青年がふとエキナカの住民から引き取った「18きっぷ」を手にして、増殖をつづける横浜駅の暴走を止めるというお話。

ライトな読者(BLAME好きな人)に支持されそうな挿絵(萌えそうなメガネ美少女とか出てきたり、足のない幼女サイボーグとか出てきたり)もあって、とても二次制作しやすい記号に満ち溢れてたライトな感じに収まっててちょっとげんなりした。要らないエピソードとか世界観の描写に全く寄与しないような情景描写や、物語の駆動たるにはあまりにも薄っぺらく無能力な主人公を据えてる時点で「ネタ感」を感じてしまって、作りこんだハードSF好きには物足りないと思う。テンポよくサクサク読めるし単純なハッピーエンドにならない感じとかはすごく好きなんだけど、結構展開はご都合主義的で、たまたま地下道で出会った人物が横浜駅に対抗する科学力を持つ北海道の一味の仲間だったり、たまたま流れ着いた都市に主人公が追い求めていたレジスタンスのリーダーとなる萌えメガネ美少女がいて主人公の協力をしてくれたり、ちょっと不自然な感は否めない。だからというか、主人公に劇的な成長や変化がないまま物語は終わるので、なんかあっけない。、その分「BLAME!」よりは必要前提知識が少ない気がするので、とっつきやすいかも知れないけど、SFの世界観を表現するのに必要な宗教観や政治観に関する描写が薄いのも気になる。