midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「ヤーディ」を読む。

訳者が荏開津広氏ということで読んでみた。まぁ、これまで様々な媒体で語りつくされた感のあるギャングスタストーリーである。主人公はジャマイカからロンドンにコカインの密輸のため不法入国した青年で、引き渡す予定だったコカインを持ち逃げして自分で生産・輸送・販売ルートを開拓しのし上がっていき、もっと大きな人物を敵に回して転落するというもの。「ヤーディ」とはジャマイカンのことを指すらしい。著者もジャマイカ系の移民で、ロンドンで自費出版したらしい。

全編を通してレゲエやサウンドシステムなど音楽はもとより、ラスタファリズムに傾倒する主人公の兄がいたり、スプリフを巻いて吸ったり、傷口をレモンと唐辛子で消毒する、みたいな細かなジャマイカ人の生活文化が語られてるのは興味深い。著者自身映画の脚本用に書いたということだが、冒頭のスリリングな入国審査のシーンに始まり、のし上がって有名なレゲエアーティストのパーティのVIP席にブリンブリンな格好で仲間と参列してみたりと、確かに映像を想起させる力が強い小説だと思う。けど、結構キャラの使い方が雑に感じる部分(主人公の「第一の」恋人の女の子は主人公の子を出産してから一度も出番がない、とか)も多くてちょっと散漫な印象もあった。主人公の友人のレコード屋でラスタマンと出会い、働きもせずに大金を手にする若者がいるとコミュニティに良くない影響を与える、みたいな意味深な話をするからてっきり布石になるのかと思ったら何もなかったり、みたいなこともあるし。雰囲気を楽しむ分には十分だけど。