midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「凶悪」を観る。

凶悪 [Blu-ray]

凶悪 [Blu-ray]

面白かった。実話がもとになった凄惨な犯罪映画ってことでどうしても「冷たい熱帯魚」が思い浮かべられるけど、映画としては全然別モノだと思った。死刑囚が雑誌編集部に送った文章をもとに、記者が独自の調査を進めて未解決の事件を掘り起こしていくお話。

物語自体は、途中鮮やかに過去にすり変わる場面があり、それまではかなり淡々と進んでいくが、この切り替わりから俄然「面白く」なる。冒頭のシーンとのつながりや、現在に時間軸が戻る辺りの見せ方も見事。主演の3人がいい味出していて、ピール滝がまたオールバックにダサくて胡散臭いセーターとかヤクザファションが似合うんだな。リリーフランキーの人を食ってかかったような脱力した態度も、演技のようで元からのようで面白い。キャッキャしながら人を殺したり、死体の腕から時計を外して「これは金になる」とか言う辺りは「冷たい熱帯魚」のでんでんとは違った怖さがある。

でも、本作で一番面白いのはやはり山田孝之演じる「正義感は狂気の一種だ」とでも言いたげな男の描き方。彼は社会悪をペンの力で掘り起こし、正義の名のもとに表に晒し上げる存在なんかではない。異様な事件に魅せられ、家族関係も、求められる仕事もおざなりしながら、告発した死刑囚も、自分がつるし上げた犯人にも執拗に「罰」を求める狂人である。そしてそれは、ラストシーンのリリーフランキーのセリフ「私を一番殺したいのは恐らく、被害者でも須藤(死刑囚)でもない、お前だよ」にも指摘されたており、この映画を「楽しく」観ていた観客をも射程に捉えたメッセージになっており、ここには戦慄した。叩いていい人や素材を見つけると自身の娯楽のためというのをひた隠しにし、「正義感」を振りかざして徹底的に叩くネット住民たちに向けられているような気がした。このメッセージは「冷たい熱帯魚」にはないし、実在の事件をどう作品として見せるか考え抜いて提示した見せ方だと思った。これは傑作。

ただ、ちょっと残念だなーと思ったのが、リリーフランキーの共犯役のおっさんがありえないようなシチュエーションであっけなく死んでしまうこと。それまでの緊迫していた空気がこれでちょっと白けた感じがある。実際の事件がどうだったかはわからないけど、ちょっと見せ方を変えれば緊張感を持続させられたと思うんだけどな。