midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「映画」

「晩春」を観る。

晩春 [DVD]

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初の小津安二郎作品で、かつ代表作の一つ。ふーん、こんな作品を撮るんだ、という印象。妙齢になったが結婚する気がない娘と、大学教授を務める父親(娘が幼い時に妻をなくす)と、なんとか結婚をさせようと動くその周囲の人たちの中で起こるささやかなお話。

固定カメラで家族の心の機微を丹念に描くような場面が多いんだろうと思ってたけど、いやそれはそうなんだけど、どうにも役者がうまいと思えないというか、不自然に見えてしまう。ロベール・ブレッソン的な不自然さ。監督としては、画面構成からセリフの一つ一つにおけるまで完璧に制御しているつもりなんだろうけど、そのせいかあまり生きた物語という感じがしない。特に不自然なのは、原節子が何度も結婚には行きたくないといってうなだれているのに、友人も父親もまったくそれに意に介さず、「早く結婚しちゃいなさいよ」「よし、じゃあお見合いに行ってくれるね」みたいなセリフをいうことだ。あの様子だと「何が不満なの?」「言いたいことがあったら行ってみなさい」というのがそれぞれの役割からすると適切だと思うんだけど…。特に笠智衆演じる父親はひどくて、漫才のボケというかギャグに見える位だ。「え?わざと言ってんの?」という位娘の気持ちが読めていないというか。恐らく当時としては進歩的で、社会的立場の高い知識人として描かれてるんだろうけど、クライマックスの娘をなだめるシーン以外は白痴みたいに見える。

あと、どうでもいいけど笠智衆はラストシーンについて、もともと涙を流すシーンだったものを、「明治の男は泣かないものだ」と言って、ただ顔をうなだれるシーンに代えさせたところ、視聴者から「寝たのかと思った」という評を聴いて激怒したというエピソードがあるらしいけど、このエピソードもひどくないか?演技論は色々あるだろうけど、俺からしたら、明治生まれだろうがなんだろうが泣いて見せるのが俳優の仕事だと思うし、あげくそれを拒否したシーンについて、視聴者が素直に受け取った解釈を否定するってどういうことよ。顔をうなだれるという演技をしたつもりで、「寝てるように」見えちゃったんならそれは役者の力不足だと思うんだが。