midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

「室温」を読む。

岸本佐知子訳ということで読んでみた。どこにでもいるような自分と同年代のアラサー男子が、6か月の女の子の赤ちゃんをあやして寝かしつけるまでのなんでもない20分を、偏執狂的に細かい想像力と脱線に脱線を重ねる空想で描く変な小説。

空になったピーナッツバターの瓶とか、赤ちゃんの寝るベッドの上についてるくるくる回るやつ(?)とか、文章に使うコンマの意義についてとか、普段気にも留めない事物から何ページにもわたる妄想が膨れていき、徐々に作者の意識が「そういえば」と派生した別の事物に及んで語りつくしていく、という文章の中から、作者の人となり、妻と娘や両親などについての愛情がにじみ出ているのを気持ちよく読めた。そしてそんな環境を築くことが出来ていない自分と比べて羨ましいなと思ったり。特に、妻とトイレの大きい方を「大仕事(big job)」という単語で通じるようになった話とかが好きで、特別に親密な人と、その人としか通じない単語で話せたらなぁ、と思うのだ。misiaの「包み込むように」でも「恋人と呼び合える時間の中で特別な言葉をいくつ話そう」というフレーズがあるけど、どれだけ親密な相手とクローズドな言葉を話せるかというのは自分の経験としてもとても甘美で気持ち良い体験なのだ。

あと、「図書館にいくとなぜか大きい方を催す」という事象が洋の東西を問わずあるあるということを知って面白かった。勿論この事象についても作者は紙に載ったインクの作用とか細かい分析をしていたりする。はっきり言って物語としては何も起きないし、万人にお勧めできる作品ではないが、こういうミクロ的な視点の文体が好きな人にはお勧めできる。ミランダ・ジュライ好きな人は多分合うと思う。