midnight in a perfect world

webエンジニアのメモ

残像に口紅を」を読む。

カズレーザーがレコメンドしてて興味を持った一冊。初の筒井康隆体験だったが、面白かった。日本語における現代仮名遣いで、一章ごとに使える文字を削除していき、それとともに作品世界で「作者がその文字を使用して認識する事物」も消えていく(例えば、「あ」が消えると「愛」も「あなた」も消えるという)という制約で描かれた自叙伝のような作品。幽遊白書の海藤と蔵馬の言葉を使ったゲームの元ネタになった作品でもある。

とにかく、使える文字が減っていく中で作者が苦心して描き出す文章が面白い。大きく3部に別れていて、2部まではまどろっこしい言い方ながらまぁなんとか文章として読めるが、3部になるとほとんど日本語として崩壊した文章となっている。特に面白かったのは、セックス描写と講演の描写だろうか。セックス描写の時点で30文字ほど失われているが、それでもセックスの艶めかしさを豊富な語彙で隠喩や直喩で巧みに表現しており、感服してしまった。単純に官能小説的というか、単純にムラムラする文章になっているのだ。講演の描写はさらに使える文字が減っており、言葉遣いが老人のような「じゃ」口調となっているのだが、それでも文章を創作することの歴史と現代における意味や文壇との関係なんかを論じていて、なかなか面白い出来だった。引用する作品のタイトル名などの固有名詞を表現できない、などを除くと、知らずに読んだら文字が限られてるとは気づかないかもしれない。

また、こういった作品に課した形式的なルールを作品世界に敷衍するような作りになっているのも面白い。前述したように、言い換えが出来ない固有名詞を持つ人物などは、文字が消えた時点で作品世界からも退場していく。タイトルの「残像に口紅を」は正に愛する人が消えた際の残像に思いを馳せているのだが、こういった表現も巧み。物語や虚構を成り立たせるルールに意識的な、こういう実験的な小説をもっと読んで、臨界点を知りたいなーと思わせる。筒井康隆は結構そういう遊びを他の作品でもしているらしいので、次も手を出してみようと思う。いやー、カズレーザーは偉大だ。