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webエンジニアのメモ

真山仁「プライド」を読む。

プライド (新潮文庫)

プライド (新潮文庫)

面白かった。「ハゲタカ」で有名な著者で、企業小説のお勧めによく挙がってるのでこちらの短編を読んでみた。官僚や政治家を描いた作品と、米や養蚕、養蜂などの農業を描いたものが数点という構成。どれも短くて、物語としては結構中途半端な終わり方をしてしまうものが多いような気がするが、それぞれのテーマについて非常に緻密な取材と研究のたまものであろう専門家であるかのような知識量に基づく書きぶりには驚く。著者は「現代社会を描く作家でありたい」というようなあとがきを書いているが、正しくその通りの仕事ぶりだ。そして、本書のタイトル通り、仕事を通して人が獲得する「プライド」や「矜持」に通じてかっこいい。著者の文体はまったく芸術性を感じないけど、職人的な気概は大いに感じることが出来た。

一番印象的だったのが、効率化・合理化の中で半ば工業製品のようになり失われてしまった養蚕から、本来の絹の美しさを取り戻すために自分の研究職という立場を捨てた女性によって、プロ入りしたものの怪我で道を絶たれて不貞腐れながら地元の役所で働いていた男性が「プライド」を獲得していく「絹の道」という話。著者は研究のために実際に蚕を飼ってみたというから恐れ入る。そして、養蚕は単なる経済行為というだけでなく、茶道や剣道のような「道」なのだと語る女性のような生き方に主人公の男性と同様に憧れ、自分の働き方を鑑みてしまう。プライドを持って仕事できているか?正直に言って今は「その通り」と答えづらい。小さな妥協も許さない、プライド持てるような働きをしなきゃなぁ。